日本酒と本格焼酎の蔵元が結束し、発展や普及活動を目的とした新たな企画が軌道に乗り始めている。コロナ禍で飲食店の営業制限の影響も直撃した危機感もあり、「地酒業界の未来へつなげる」を合言葉に、20年12月に一般社団法人「J.S.P(ジャパン・サケ・ショウチュウ・プラットフォーム)」を設立。新政酒造(秋田)を営む佐藤祐輔代表理事(47)は9日、「コロナで技術や意見交換の場が失われてしまった。仲間内でのオンライン勉強会から始まり、せっかくだから啓発活動もしていこうとなった」と説明。昨年8月からは専用サイト「UTAGE」を開設し、ユーチューブ動画で加盟蔵元を紹介している。

毎週木曜の午後8時に蔵元のプロモーション映像からスタートし、地域の風土や醸造工程などを紹介。その後に蔵元経営者、加盟社から進行役と味の解説役、特別ゲストが参加し、試飲を楽しみながら、蔵や酒の歴史や魅力、銘柄の由来などを約1時間の生配信で語り合う。毎週1つの蔵元が“主役”となってサイトオリジナル限定酒を披露し、午後9時から販売開始。市場に出回らない逸品だ。

小牧醸造(鹿児島)専務取締役の小牧伊勢吉理事(43)は「地方では有名だけれども…という若手経営者が多い。蔵の思想を話して気に入っていただいて、全国の酒屋さんで(一般販売銘柄を)お買い求めいただけるきっかけになれば良い」。これまで、小中規模の蔵元は地道に品質の良い酒を造り続けてきたにもかかわらず発信力に乏しく、小売店などの宣伝活動に頼る部分が多かったが、変化も生み出せた。ゲストにはサッカー元日本代表の磐田MF遠藤保仁や、新国立競技場を設計した建築家の隈研吾氏、日刊スポーツの競馬予想でも人気なタレント高田秋らが登場するなど、業界外の賛同者も多い。

03年前後からの「第3次焼酎ブーム」では売り上げが約10倍になった蔵元もあったが、厳しい現状がある。日本酒も約50年近く売り上げが減少続き。佐藤氏は「コロナの2年間で、外食の飲酒代は約75%ダウンしたと言われている。それでも『UTAGE』を通じて、新しいファンも増えていると感じるし、人気の蔵も誕生している」。今後は加盟全40社が集まった試飲イベントなども検討中だ。醸造も手掛ける若手経営者が、ブームではなく、酒文化の巻き返しを叫ぶ。【鎌田直秀】