来年は午(うま)年。十二支の7番目で、「午」は馬のことである。馬は力強く、俊敏に前へ前へと駆け抜けるところから、「前進」や「飛躍」の象徴といわれている。過去の午年にはそれに当てはまる事象が多い。一方で、株式市場の格言では、午年は「尻下がり」で、相場が下落しやすいといわれる。確かに午年には、昭和恐慌やバブル崩壊といった負の動向があった。2026年の道しるべに、温故知新してみよう。(敬称略)【笹森文彦】
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12年サイクルの十二支は、中国最古の王朝・殷の時代(紀元前17世紀~同11世紀)にできたといわれている。日本には「日本書紀」の記述などから、6世紀ごろに伝わったとされる。
馬は力強く、スピーディーに草原を駆け抜ける。躍動感にあふれ、本能的に前へ前へと進む。そこから「前進」「飛躍」「行動力」の象徴とされている。
午年には、そんなワードを思わせる出来事が数多く起きている。
古くは、織田信長が明智光秀に急襲され自害した本能寺の変(1582年)、赤穂浪士の討ち入り(1702年)などがある。いずれも目的を果たすために突き進んだ行動だった。
明治以降では、午年は来年で14回目となる。表を参照しながら、振り返ってみよう。
◆新時代への前進
1870年に、日の丸が国旗としての地位を確立した。同年、平民の苗字使用が許可された。いずれも国家としての前進だった。
1954年の日本中央競馬会の設立は、競馬隆盛への大きな1歩だった。
世界では国際オリンピック委員会(IOC)の設立(1894年)、第1回FIFAワールドカップ開催(1930年)などがスポーツの新時代を開いた。
◆負の「侵攻」
午年は他国への侵攻が目立つ。1894年に、朝鮮の農民の反乱を機に、日本と清が朝鮮に派兵し、日清戦争が勃発した。
1990年のイラクのクウェート侵攻は、イラクと多国籍軍の湾岸戦争に発展した。2014年にはロシアがウクライナのクリミア半島に侵攻。現在の両国の戦争の伏線となった。
◆大きな飛躍
2002年FIFAワールドカップは、日本と韓国の共催だった。2大会連続2回目出場の日本は、ロシアとチュニジアを下し、2勝1分け(ベルギー)の勝ち点7で、決勝トーナメントに進出した。トルコに0-1で敗れたが、ベスト16入りを果たし、以後、日本サッカーは躍進した。
2014年にテニスの全米オープンで、錦織圭(当時24)が決勝に進出。アジア男子初の4大大会(全豪、全仏、ウィンブルドン、全米)シングルスファイナリストとなった。マリン・チリッチ(クロアチア)に敗れたが、大飛躍だった。
◆「午尻下がり」
株式相場には十二支にまつわる格言がある。
「辰巳天井、午尻下がり、未辛抱、申酉騒ぐ、戌笑い、亥固まる、子繁盛、丑つまずき、寅千里を走り、卯跳ねる」
過去の相場の経験則から生まれた。午の「尻下がり」とは、「相場が連続して下落する動きに入りやすい」ことを言う。
「前進」「飛躍」とは正反対のようだが、古代中国の十二支によれば格言は納得できる。
十二支の前身は植物の成育過程を漢字で表したもので、その後、漢字に動物を当てはめて現在の十二支になった(「午年と十二支のあれこれ」を参照)。
午は「仵(ご)」という漢字に当てはめられた。「植物が最盛期を迎え、成長が止まり衰え始める状態」を表す漢字で、その漢字のつくりから午となった。
最盛期から衰えるは「尻下がり」の格言通りで、確かに午年にはそんな経済状況が多い。
1930年は、前年の米ウォール街の株価大暴落(世界恐慌)の影響などで、日本は深刻な不景気に襲われた(昭和恐慌)。1990年は、4月2日に日経平均株価が歴代ワースト5位の1978円38銭安を記録。バブル崩壊に向かった。
2002年には、日本はデフレ不況(物価の下落と経済の停滞が同時発生)に陥り、日経平均株価は10月3日に、終値(8936円43銭)でバブル崩壊後の最安値を更新した。9000円台を割り込むのは19年ぶりだった。
今秋、世界でAIバブル崩壊への懸念が高まった。日本は高市首相の「存立危機事態」発言で、中国との関係が悪化し、経済への影響が出始めている。
来年の午年も「午尻下がり」の相場格言が、現実味を帯び始めている。うま(馬)くいかない年になるのだろうか。
◆十二支(じゅうにし) 「子(ね)丑(うし)寅(とら)卯(う)辰(たつ)巳(み)午(うま)未(ひつじ)申(さる)酉(とり)戌(いぬ)亥(い)」で年を表す。かつては時刻や方位も表した。時代劇や怪談の「丑三つ時」は午前2時~同30分ごろ。
今は干支(えと)といえば十二支を指すが、本来は別物。十二支と、古代中国の思想に基づく十干(じっかん=「甲(こう)乙(おつ)丙(へい)丁(てい)戊(ぼ)己(き)庚(こう)辛(しん)壬(じん)癸(き)」)を組み合わせた60通りが干支(十干十二支)なのである。
「戊辰戦争」や「辛亥革命」などの名称は十干十二支を使っている。甲子園球場は1924年(大13)の「甲子(きのえね)」の年に完成して命名された。
来年は十二支では「午」、十干十二支では「丙午(ひのえうま)」の年となる。かつて丙午生まれの女性は「気性が荒く夫を不幸にする」などと言われたが、迷信である。
<午年あれこれ>
午年と十二支にまつわるアレコレを紹介する
▼なぜ馬を「午」と書くのか 午だけでなく、十二支のすべての漢字は動物と関係ない。古代中国の十二支の前身は、植物の成育過程を「滋・紐・演・茂・伸・巳・仵・味・身・老・脱・核」の12段階で表現したものだった。生活に必要な知識だったが、庶民には難解で、覚えやすいように身近な動物を当てはめた。
例えば「滋」は「種から新しい生命が誕生する状態」を意味した。そこで繁殖能力が高いネズミ(子)が割り当てられた。
「紐」「演」「仵」「味」「核」は、漢字のつくりから「丑」「寅」「午」「未」「亥」にした。
「午」は「草木が最盛期を終える時」を意味した。いわば「ピーク」だ。十二支は同時代に時間も表した。十二支の7番目の午は、太陽が高くなる時刻を表した。高さのピークが「正午」、その前が「午前」、その後が「午後」との呼称が生まれた。
成長のピークを迎え、勢いよく進む姿から、午(馬)が割り当てられたといわれている。ただし「最盛期を終え、衰え始める状態」も含んでいる。正午から日が陰り始める午後に向かう意味合いである。
▼午(馬)のことわざ 「馬が合う」(騎手と馬の相性が転じて、気が合うこと)「馬の耳に念仏」(内容を理解できないこと)「馬耳東風」(人の意見を聞き流すこと)「塞翁(さいおう)が馬」(幸不幸は予測できないの意)。

