ダービーは今年で90回目を数えました。改めて感じたのは、いつの時代も「正攻法」が競馬のセオリーだということです。スタートを決め、好位置をとって折り合い、直線で脚を使う。タスティエーラの競馬はまさに正攻法でした。

日本ダービーを制したレーン騎乗のタスティエーラ(撮影・野上伸悟)
日本ダービーを制したレーン騎乗のタスティエーラ(撮影・野上伸悟)

前半1000メートル通過が60秒4。気持ち遅めですし、これは逃げたパクスオトマニカのラップです。2番手以降の集団は61秒台半ばから62秒くらいですから、スローペースでした。そうなると上がりが速くなる→前の馬に有利→正攻法がより生きることになります。

ただ、どの馬にもできるわけではありません。騎手が好位を取りたいと思っても、馬が反抗したり、行き過ぎてはできません。実際、スローになったことで、タスティエーラの周りには掛かっている馬もいました。騎手が思うように動かせることが正攻法の秘けつです。そのあたりは、さすが名門・堀厩舎。普段の調教が高い操縦性につながっていると感じましたし、振り返れば前崩れとなった皐月賞で、ただ1頭、正攻法で2着に踏ん張っていたのがこの馬でした。

直線伸びてダービーを制したタスティエーラ(中央)とレーン騎手(撮影・野上伸悟)
直線伸びてダービーを制したタスティエーラ(中央)とレーン騎手(撮影・野上伸悟)

そして、大きな勝因がもう1つ。レーン騎手の追い出しです。直線ですぐ後ろにいたソールオリエンスよりも先に動きました。遅い流れとタスティエーラが使える脚を考え、少しでも差を広げておきたい気持ちもあったのでしょう。上がりは33秒5。2着ソールは33秒3。数字上、詰められたのは1馬身です。最後は首差ですから、あの追い出しが最高の判断でした。

そのソールは、上がりの数字こそ速いですが、皐月賞ほどの脚は使えなかった印象です。横山武騎手が長い直線を意識して、我慢して我慢して切れ味を引き出しましたが、周りの馬も速い上がりを使える展開になったことが誤算でした。もう少し流れた方が、他馬との上がりの差を出せたでしょう。

3着ハーツコンチェルトは新馬戦を圧勝した時に、世代トップの評価をされた素質馬です。その後は不振もありましたが、よく立ち直りました。もともと馬体はこれから良くなる印象。成長力のあるハーツクライ産駒ですし、菊花賞はこの馬かもしれません。(JRA元調教師)

ダービーを制したタスティエーラのレーン騎手はガッツポーズする(撮影・柴田隆二)
ダービーを制したタスティエーラのレーン騎手はガッツポーズする(撮影・柴田隆二)