新女帝が誕生した。ヘヴンリーロマンス(牝5、栗東・山本)が、最後の最後で馬群を割って激戦を制した。勝ちタイムは2分0秒1。昨年の年度代表馬ゼンノロブロイ(牡5、藤沢和)を頭差差し切る勝負強さで初のG1タイトルを獲得。天皇皇后両陛下が観戦される前で、エアグルーヴ以来8年ぶりの牝馬優勝を達成した。

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新女帝は激戦の末に誕生した。ゴールまで残りわずか。ダンスインザムードが内を締めにかかった瞬間、松永幹夫騎手が手綱を取るヘヴンリーロマンスの前にビクトリーロードが開けた。内ラチ沿いで我慢の競馬を続けていたが「ここしかない」とばかりに、右前方に進路を取る。外から寄せてくるゼンノロブロイと、ダンスの間に頭をねじ込むと、さらにグイッとひと伸び。残り1完歩で頭だけ前に出た。自身の上がりタイムは32秒7。レースのラスト3ハロンが33秒6という究極の上がり勝負を制したのは、道中好ポジションを維持したレースセンスと、馬群を割るのにひるむことのない勝負根性だった。

「牝馬にしては立派な体をしている。まさに『女傑』って感じの馬。もっと流れが速くなってほしいと思ってたけど、最後に伸びてくれた」。札幌記念に続いての牡馬相手の重賞勝ちだが、やはりG1勝ちの味は別格。レース後しばらくたっても山本正司師(68)は興奮気味だった。

今年前半は牝馬限定戦でも結果を出せなかった。丸内助手は「牝馬限定戦だとみんな手ごろだと思って乗ってくるから流れが遅くなる。この馬は我が強い馬だから少しでも自分のリズムが狂うと嫌気が差しちゃうんだ」と振り返る。だが、その敗戦の日々があったからこそ、この日は1000メートル通過1分2秒4のスローペースにも対応できた。「春にストレスがたまる競馬を続けた分、競馬が上手になっていた」と山本師も目を細める。

連闘での札幌記念優勝や、輸送を控えながらCウッドコースで6ハロン76秒6のハードな追い切りを敢行した今回の調整過程など、そのタフさはまさに牡馬勝り。次走はエリザベス女王杯(G1、芝2200メートル、11月13日=京都)を予定しているが、この日の勝利でジャパンC(G1、芝2400メートル、11月27日=東京)も選択肢に入った。今の充実ぶりなら、2つ目のG1タイトルも十分手の届くところにある。【高木一成】

◆ヘヴンリーロマンス▽父 サンデーサイレンス▽母 ファーストアクト(サドラーズウェルズ)▽牝5▽馬主 (有)ノースヒルズマネジメント▽調教師 山本正司(栗東)▽生産者 ノースヒルズマネジメント(北海道新冠町)▽戦績 31戦8勝▽総収得賞金 3億9123万9000円▽主な勝ちクラ 04年阪神牝馬S(G2)05年札幌記念(G2)

(2005年10月31日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時