府中が“ノリさん”のとりこになった-。9番人気の伏兵、ダノンデサイル(牡、安田翔)が3歳世代の頂点に立った。道中は好位の内をリズム良く追走し、直線は最内から気迫十分に抜け出した。殊勲の横山典弘騎手は14年ワンアンドオンリー以来のダービー3勝目で、56歳3カ月4日のJRA・GI&重賞最年長勝利記録を樹立。管理する安田翔伍調教師はダービー初出走で、41歳10カ月19日の史上最年少制覇を果たした。
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地鳴りのような7万8678人の祝福を横山典騎手は笑顔で、全身で受け止めた。「いつもファンは勝った時、とても温かく迎えてくれる。とても心地よかった」。ウイニングランではヘルメットを取って、スタンドへ深くお辞儀。10年前のワンアンドオンリーと同じように、口取り後に「ヘーイ!」と馬上から飛び降り、フライング・ディスマウントを披露すると、スタンドが再び歓声であふれた。
JRA・G1最年長勝利を更新したベテランに迷いはなかった。スタートを決めると、手綱を押して逃げ馬の後ろを確保し、好機をうかがった。直線で仕掛けると、残り300メートルで先頭へ。上がり33秒5の脚を見せれば、皐月賞馬ジャスティンミラノも歯が立たず、2馬身差で突き放した。
取材対応では、いつも慎重に言葉を選ぶ。1月の京成杯直前、ダノンデサイルの話題に「少しずつ良くなっている。少しずつでも良くなることは、簡単に聞こえるかもしれないけど、大変なことなんだよ。生き物だからね」と話した。調教にまたがらない日も騎乗予定馬が目の前を通れば、近づいてスタッフと会話をし、馬をなでる。トレセンの日常光景だ。
そんな“馬ファースト”を貫く鞍上だからこそ、皐月賞で大きな決断ができた。スタート直前に馬のわずかな変化を感じ取り、自ら違和感を申し出て、右前肢ハ行で競走除外に。「皐月賞は微妙なところだったけど、(出走を)やめられたのは、今日だけじゃなく、デサイルの将来性を断たなくて良かったと思う」。頓挫を乗り越えた人馬には3歳馬の頂上が待っていた。
ダービー3勝は、福永祐一元騎手と並ぶ歴代2位。56歳での制覇は、世界主要国のダービー史上でも光り輝く。「自分のことというより、みんなとタッグを組んでダービーを目指してきて、勝てたというのがとてもうれしい」。ゴール後は、息子の武史騎手からも祝福の握手を受けたが、脳裏に浮かぶのは自身よりもチームのこと。“ノリさん”の無邪気な笑顔が府中を包んだ。【下村琴葉】
◆ダノンデサイル ▽父 エピファネイア▽母 トップデサイル(コングラツ)▽牡3▽馬主 (株)ダノックス▽調教師 安田翔伍(栗東)▽生産者 社台ファーム(北海道千歳市)▽戦績 5戦3勝▽総獲得賞金 3億8200万円▽主な勝ち鞍 24年京成杯(G3)▽馬名の由来 冠名+母名の一部
◆ダービー最年長V 横山典騎手は56歳3カ月4日で制し、22年武豊騎手(ドウデュース)の53歳2カ月15日の最年長勝利記録を更新した。世界の競馬史を見ると、1829年の英ダービーを調教師兼任で勝ったJ・フォース騎手が60歳以上だったとされる。近年における主要国のダービーで最高齢勝利記録として名高いのが、86年ケンタッキーダービーをファーディナンドで制したW・シューメーカー騎手の54歳8カ月。主要国以外では、00年ハンガリーダービーをP・カライ騎手が67歳で制した例がある。

