先日、能登で引退競走馬支援に取り組む角居勝彦元調教師(61)と、かつての管理馬ヴィクトワールピサについて話す機会があった。

種牡馬としてトルコへ渡り、現地での初年度産駒は今年の同国のダービーでワンツーフィニッシュを果たした。被災地で復興に挑む名伯楽も、朗報に声を弾ませていた。

「聞きました。ありがたいですよね。海外でも種馬として活躍してくれてうれしいです」

同じ角居厩舎の出身では、国内外でG1・2勝を挙げたハットトリックも、種牡馬として米国、オーストラリア、南米を渡り歩いた。11年のフランス年度代表馬ダビルシムをはじめ、米国でもG1馬を出すなど世界で名をはせた。

「ヴィクトワールピサはドバイワールドC(11年)を勝っていますし、ハットトリックも香港マイルで勝ったから海外で種馬になれたのだと思います。やはり世界で実績を挙げるのは大切なことです」

両者とも海外G1制覇で自身の未来を切り開いた。それは、果敢に挑戦したからこそ得られた成果でもある。

角居厩舎初の海外遠征となったシーザリオのアメリカンオークス制覇(05年)や、デルタブルースのメルボルンC勝利(06年)などは、海を渡るのが珍しくなくなった今でも目を見張るようなチャレンジだ。当然ながらリスクも大きい。今ほどノウハウが蓄積されていなかった当時ではなおさらだ。それでも、トレーナーの熱意に加え、オーナーをはじめとする周囲の理解がトライを押し進めた。

「今ではもう、みんなちゅうちょなく、馬主さんも『お金がかかってもいいから行こう』という雰囲気になっていますよね」

種牡馬や繁殖牝馬として海外で需要が高まれば、引退競走馬のセカンドキャリアとしても理想だろう。

幸運なことに僕は、ヴィクトワールピサのドバイワールドC制覇を現地で取材することができた。東日本大震災直後の歴史的な1勝。ゴール直後は興奮で両膝が震えた。「久しぶりに明るいニュースが1面になった」とも聞いた。

忘れてはいけないのが、2着トランセンドと8着ブエナビスタの存在だ。牡・牝・ダートのトップホースがそろって未知のオールウェザーコースに挑んだことで挙げられた戦果ともいえる。

あれから14年。角居さんとM・デムーロ騎手には、今も紙面コラムなどでお世話になっている。ヴィクトワールピサの誕生日07年3月31日は、私事ながら僕が結婚した日付でもあり(一方的に)深い縁を感じている1頭だ。

挑戦は尊い。

フランス語で「勝利(Victoire)」と名付けられ、今なお異国で奮闘する忘れじの名馬は、世界へ挑む意義をあらためて教えてくれた。【太田尚樹】