プロ入り後、ずっと気になっていたのが昨年、ドラフト1位でヤクルトに入団した奥川だった。甲子園で“熱投”したイメージから一転、プロのマウンドではほとんどと言っていいほど、投げる姿は見られなかった。入団時は「ヤクルトを背負って立つ投手」と期待していただけに心配していた。今キャンプでは初めて、フリー打撃に登板する姿を見させてもらった。

投手にとって大事な“しなやかさ”を感じる。肩肘の関節が柔らかい。球速も140キロ後半は出ていたし、右打者、左打者にかかわらず内外角にも投げ分けていた。一流投手に育つだけの資質は、間違いなく備わっていると確認できた。

ただし、これがプロ入り1年目のキャンプなら「さすがドラ1」とたたえるだけで終われただろう。しかし2年目以降は、選手の見方も変わる。今の時期とはいえ、球速は速くなっていないし、打者が「速いだろう」と早めに始動して打ちにいった時、打ちにいくのが早すぎでバットの先っぽに引っ掛けるようなファウルを打っていた。左肩の開きが早いため、球が見やすく、打者は腕の振りよりスピードを感じていなかったのだと思う。

体も細身なだけに、もっと大きくなっていてほしかった。急成長する選手というのは、1年目のオフを終えると、見た目ではっきりと分かるほど大きくなる。もちろん、体質や年齢、プロ入りした時点での体つきによって差が出る。それでも野球に専念できる環境が整っているプロの世界では、本人の自覚さえあればいくらでも体を大きくできる。言い換えると、体作りとは練習だけを一生懸命にやるだけでなく、よく食べ、よく寝るといった私生活まで関わってくる。これができる選手は、成長の速度も速い。

投げていくことで肩肘が張り、思うような投げ込みができないのならスタミナ作りや筋力を増やさなければいけない。投げ方が悪くて体に負担がかかるなら、フォームを修正するしかない。投げていくことで自分に足りないものも分かってくる。周囲の人間も「過保護」と「大事に育てる」が違うことを理解しなければいけない。これから2年目、3年目になると、同世代の選手が頭角を現してくる。奥川も負けないように、大きな1歩を踏み出せるシーズンにしてもらいたい。(日刊スポーツ評論家)

打撃投手を終え、中村(左)と言葉を交わすヤクルト奥川(撮影・河田真司)
打撃投手を終え、中村(左)と言葉を交わすヤクルト奥川(撮影・河田真司)