阪神青柳晃洋の状態は良くなかった。特に序盤はスライダーが抜けたり外れたり、制球に苦心して多くの球数を要した。でも今年の青柳はそこで崩れない。ピンチを招いても苦し紛れにストライクを取りにいかず、要所でギアを上げて6回1失点にとどめた。唯一の黒星は、5月に中日大野雄と投げ合って10回完投でサヨナラ負けしたあの1試合。調子が悪くてもしっかりゲームをつくる安定感が抜群で、ベンチも登板日は勝利が計算できて安心できる。堂々のエースと呼ぶにふさわしい。

青柳の4冠で、今年一番の進化を象徴するのが奪三振の増加だ。1試合の奪三振率が昨年の5・99から7・69に2個近く上がっている。それは高低のゾーンをしっかり使えるようになったからだ。低めでゴロを取たせるのが持ち味だが、今年は意識的に高めに真っすぐを投じている。打者は下から浮き上がってくるように感じ、キレも強さもあるから空振りしてしまう。低め一辺倒ではなく、変則投法で高めも意識させられるとかなり的が絞りづらい。

プラス、コントロールが抜群で、両サイドに逃げたり沈むボールもある。打者はこれまで、左右と低めへの目付けでよかったが、高めへの配球が増えたことで、上下左右の全方向に対応しないといけなくなった。三振する場面を見ると、読みが外れたり、ボールとの距離をつかみづらかったりで、完全なボール球を振らされる場面も目立つ。縦横無尽に攻めることができる新たな投球スタイルが、無双の活躍ができる要因だ。

コロナ感染で開幕から約3週間出遅れながら、両リーグ10勝一番乗りをオールスター前に達成したのは立派のひとことだ。夏場の厳しい時期が続くが、この日のように首脳陣が早めに交代させるなど、体調に配慮すれば昨年の13勝クリアは問題ない。15勝以上の白星は十分期待できるし、どこまで伸ばせるかが楽しみだ。(日刊スポーツ評論家)

阪神対中日 お立ち台で今季1号本塁打を放った北條(左)と10勝ポーズをとる青柳(代表撮影)
阪神対中日 お立ち台で今季1号本塁打を放った北條(左)と10勝ポーズをとる青柳(代表撮影)