今季限りで現役を引退した阪神上本博紀氏(34)の記事を見て、ふと思い出した。約3年前、阪神ナインの高校時代をたどる企画で、上本氏の恩師、広陵(広島)・中井哲之監督(58)に話を聞いたことがあった。入学当初の印象は、小柄な普通の少年。そこから現役12年のプロ生活を全うし引退した。類いまれな野球センスとともに、想像できないほどの努力があったのだと思った。

中井監督の声は、電話越しにも寂しげだった。「さみしいですよね。この日は誰しも来るんですけど。あの体で12年間、ようやったと思います。ケガとの戦いでもあったし、ケガさえなければとも思います」。引退の結論を出すまでも何度か連絡を受けていたが、上本氏はあらためて昨年12月、引退の報告に広陵を訪れたという。スーツにネクタイをきっちり結んだ姿。やってきた教え子を見た中井監督は、真面目な上本らしいなと感じていた。「よう頑張ったな」。心からのねぎらいの言葉だった。

勝負強い姿が、中井監督の心には今も残っている。「一番大事な時に、一番大事なところで打つ子でした。広陵を大きなところに持っていってくれた。この子が一番、そういうものを持っています」。高校2年時のセンバツでは、大会個人最多記録にあと1と迫る12安打を放ち、優勝に貢献。2年夏の甲子園は初戦で先頭打者本塁打を放ち、敗れた2戦目まで全10打席で出塁した。当時から甲子園に愛されていたのかも知れない。

上本は今年からタイガースアカデミーコーチに就任。今月5日、球団の年賀式で「やってきて良かったなと思ったことがいっぱいある。そこを伝えていきたい」と話していたという。これまでの野球生活で学んできたことを、今度は後輩たちに伝える番だ。「いろんなことを経験して、見て感じるものもあると思う。真面目に一生懸命しよったら、いろんなことにつながると思う」と中井監督。教え子がまだまだ大きく成長する姿を願っている。【阪神担当=磯綾乃】

03年8月9日、東海大甲府戦の1回表、左越え先頭打者本塁打を放つ広陵・上本博紀
03年8月9日、東海大甲府戦の1回表、左越え先頭打者本塁打を放つ広陵・上本博紀