あの1日だけで、阪神メル・ロハス・ジュニア外野手(31)のキャラクターは十分に感じ取ることができた。6月2日。2軍降格となった同日、兵庫県・西宮市内の2軍鳴尾浜球場に姿を現した。5月8日に来日初の1軍昇格後、10試合で35打数2安打、打率5分7厘。1本塁打、3打点と不振を極めていたが、気落ちしていなかった。午前9時30分。若手野手がフリー打撃に励む横で、黙々とキャッチボールを始めた。

正直驚いた。鳴尾浜の取材担当に当たっていた記者は、練習に来るのかどうか半信半疑だった。6月でもすでに最高気温30度。そんな鳴尾浜での練習には参加せず、いったん気持ちをリフレッシュさせるのでは…と考えていた。

予想を裏切り、ロハスはフリー打撃にも参加。それどころか、本人は「今日も(2軍の)試合に出たい」と平田2軍監督に直訴し「気持ちを切り替えて、明日やろうか」と制止されるほど、やる気に満ちあふれていた。

昨季韓国リーグ本塁打&打点の2冠王。実績十分の助っ人は不振でもピリつかず、周囲に気を使わせない陽気な性格だ。5月29日、1軍西武戦(メットライフドーム)の第4打席。左邪飛に倒れたが、防球ネットに当たった後の捕球だとしてリクエストが要求された。判定は覆らなかったものの、テレビで見た平田2軍監督に「あれ、ファウルやったやろ」と2軍合流後、いきなりいじられた。11個も年下の井上からは「メル」と呼ばれ、若手の輪にも溶け込む。

練習熱心。人柄もいい。あとはグラウンドで結果を残すだけ。その執念を垣間見たのは2発を放っている左打席ではなく、前半戦打率0割台と苦しんだ右打席。18日DeNA戦(東京ドーム)で決勝の押し出し死球をもぎ取った第4打席、翌19日の同戦で鋭い当たりの中飛に倒れた第3打席は、いずれも左腕エスコバーに対し、バットを指数本分短く持った。速球に対応しようと創意工夫し、コンパクトに食らいついていった。

「少しずつ良くなっている。まだ100%ではないけど、少しずつ毎日毎日やっていって、状態を上げてチームの勝利のためにやっていきたい」

本人も手応えをつかみつつあるように、後半戦は8試合全てに先発し、打率3割1分。左翼守備でダイビングキャッチでアウトをもぎ取ると、新聞には“ロハッスル”の見出しが躍った。走攻守に手を抜かず、全力疾走も欠かさない。

アグレッシブな姿勢は知っている。ただ、2軍にはマルテ、ガンケルが控える。16年ぶりのリーグ制覇へ登録5人、出場4人の外国人枠の決断は調子、実績、チームバランスなどを考慮し、シビアにされるはずだ。残された期間は多くない。金のネックレスを揺らし、グラウンドで“ロハッスル”する姿を最後まで見たい。【阪神担当=中野椋】