魂のこもった6球だった。オリックス阿部翔太投手(29)は、27日の日本ハム戦(東京ドーム)、同点の7回無死満塁で2番手でマウンドに向かった。

1点も与えられない状況で、今季4試合目のマウンド。高山投手コーチと、捕手の伏見からは「開き直っていこう」と声を掛けられた。闘志むき出しで…と思われた窮地のマウンドだが、投球練習中には、笑顔も見られた。

「(笑っていた)自覚はなくて…。なぜか、わからないんです…」

新人年の昨季は、右肩肉離れの影響もあり、4試合の登板にとどまった。「本当にどんな場面でもチームの勝利に貢献できるように」と1軍マウンドに飢えていた阿部にとって、ピンチは最大のチャンスだった。

この日3安打を放っていた先頭の今川に、初球134キロスプリットで空振りを奪った。2球目は高め145キロ直球で押し切り、中飛に打ち取った。続く石井はスプリット2球を投じ、カウント1-1からの3球目、145キロ直球で捕邪飛に。三塁側ベンチに飛び込む捕手伏見の好捕にも、背中を押された。

最大のヤマ場は3番近藤だった。だが、初球内角低めの145キロ直球で中飛に仕留め、渾身(こんしん)のガッツポーズを決めた。

「どんな場面でも、自分の力を出し切れるようにと思ってマウンドに上がっています」

ターニングポイントを無失点で切り抜け、チームに白星をもたらした。取材対応中には「今日のヒーロー!」とナインから声をかけられ、笑顔を見せた。

一発勝負の世界を生きてきた。阿部は20年ドラフト6位で、日本生命からオリックスに入団。入団時には28歳で、球団新人最年長。日本生命時代には、都市対抗4度、日本選手権にも4度出場した経歴がある。

特徴は制球力と、110キロ台のフォークと、130キロ台のスプリットの投げ分け。駆け引きで打者を翻弄(ほんろう)するスタイルだ。

プロ2年目で29歳。決して若くはない。「いい投手が(オリックスに)いっぱいいる。与えられた場所で、何を求められているのかを考えたい」と着実にプロの世界を進む。

温和な笑みから、気迫の投球へ-。阿部の“ショータイム”に胸が躍る。【オリックス担当=真柴健】

日本ハム対オリックス 7回裏日本ハム2死満塁、近藤中飛に仕留め雄たけびを上げる阿部(撮影・浅見桂子)
日本ハム対オリックス 7回裏日本ハム2死満塁、近藤中飛に仕留め雄たけびを上げる阿部(撮影・浅見桂子)
日本ハム対オリックス 7回裏途中から登板したオリックス阿部(撮影・横山健太)
日本ハム対オリックス 7回裏途中から登板したオリックス阿部(撮影・横山健太)