短縮60試合、わずか約2カ月間のシーズン中、エンゼルスのアダム・チョズコ広報部長には、使命があった。「例年は野球が始まれば野球に集中するけど、去年はやっぱり野球と妻と(意識が)分かれていた。家族はもちろん大事だし、初めての子どもが生まれてくるのをすごく楽しみにしていた」。

7月下旬に開幕を迎え、それと同時にクリスティン夫人が第1子の出産を間近に控えていた。妊娠中にコロナに感染すれば、重症化のリスクが高い。「チームだけでなく、クリスティンも守らないといけない」。ルーティンだったジム通いもやめ、外出は食料品店だけに限った。

エンゼルスのチョズコ広報部長(左)とクリスティン夫人(本人提供)
エンゼルスのチョズコ広報部長(左)とクリスティン夫人(本人提供)

MLBが作成した感染予防マニュアルでは、球場に出入りする者が「Tier(階層)1~3」の3段階に分けられ、チョズコ広報は「Tier2」の区分に割り当てられた。MLBで独自に行われたPCR検査は4日に1度。できるだけ互いの接触を避けるため、例年ならファンが観戦する個室のスイートルームが、選手やコーチ、球団広報にも与えられた。昨年までにぎやかだったクラブハウスも「いつもと全然違う光景だった」。閑散としたスペースは、異質だった。

それでも心強い“同志”がいた。チームリーダーの主砲トラウトだ。同様に夫人の出産を控えていた。「似た境遇の仲間がいたのはすごく良かった。彼がどうやって健康に気をつけていたか、どこに行っていたか、たくさん話したね」。互いに励まし合い、無事に第1子が誕生した。「どうやって夜、赤ん坊を寝させるかとか、生まれた後もよく話したね」と、わが子の話題に花を咲かせた。産休からチームに戻った時には大谷翔平投手と水原通訳から「おめでとう」と祝福の言葉をもらった。

球団広報として選手やスタッフをサポートする立場だが、昨年は多くの面で支えられた。現場を数週間離れ、マット広報、日本人女性のグレイス広報に仕事を任せざるを得なかった。「3人でも(広報業務は)非常に困難だったのに、僕に家族と過ごすことを優先させてくれた。電話はできたけど、球場にはいられない。その状況を乗り越えるには彼らとの信頼関係がなくてはできなかった」。

コロナ禍で同僚とチームを守りながら、新たな家族を得た。赤ん坊の寝かしつけに苦労することもあるが「日々、新しいことがある。よく笑うようになったり、変化を見るのがすごく楽しいね」。苦難が続く中でも、幸せはたくさんある。【斎藤庸裕】

(この項おわり)