経営スケールの小さい独立リーグでも「チェンジ」の胎動が聞こえていた。

「思い切って切り替えて、環境が変わった中で、21年に何をすべきか。方針の見直しをしよう」。ベースボール・チャレンジ・リーグ(BCリーグ)に所属する埼玉武蔵ヒートベアーズの今井英雄球団代表は、感染拡大が本格化する前、昨年の3月には腹をくくった。

経費削減を徹底し、スポーツ庁などの助成金、補助金を申請したが、最終的には赤字になった。1試合平均の観客動員は、昨年が161人。403人だった19年から約4割に落ち込んだ。ただ、自前の球場を持たない独立リーグの動員力はそもそも小さく、収入の75%はスポンサーが占めている。

ユニホームや球場のフェンスに広告を載せるだけで、満足を満たすことができているのか。そもそも、令和の時代にふさわしい関係なのだろうか。「野球が好きなトップが、お金を出していた面もあると思いますが、今の時代は、社員が認めない。それに、今の経済環境の中で縁に頼ったり、頭を下げてスポンサーを募るのは、無理だろうと思います」。相手の側に立って考え、聞き取りを重ね、各企業の分析に着手した。

露出。福利厚生の一環。CSR(企業の社会的責任)。スポンサーになってくれる、それぞれの理由があった。「『ヒートベアーズにスポンサーしていて良かったね、価値があったね』と思っていただきたい」との思いが一層、強くなった。

力点が明確となり、集中してサービス改善を図った。法人会員を含めたファンクラブの内容を刷新。球場アナウンスの体験、1日球団職員、監督やコーチとの食事会…モノ消費からコト消費へとチェンジした。受け身の姿勢もやめた。2月、実業家の堀江貴文をアドバイザーに招いた。4月には、鉄道ファンの根強い支持を得る秩父鉄道とのコラボレーションを実施した。

単年度黒字という21年の目標はある。ただ今井には、もっと大きな夢がある。

「視点を置くべきところは『普及』なのではないか。打って投げる、野球の楽しさを普及する。地域に根付いたスポーツは、人を元気にする力がある。応援することで、自分の存在を表現できる。スポーツには、すごく可能性があるんです」

試合を行う熊谷市との連携。同じ埼玉に拠点を置く西武ライオンズとの連携。早速、西武の育成投手・出井敏博の長期派遣を受け入れ、実戦の場を提供することにした。チームに所属する宮之原健外野手が主催する野球教室は、今年からアカデミー事業として組み込んだ。埼玉にどっしりと根を張り、野球を普及させ、地域と共生する。

平成以降の野球界で最大の危機は、03年の福岡ダイエーホークス売却案に端を発した球界再編問題とされる。激流にもまれて誕生した楽天は10年後に日本一となり、地域密着という新しい球団経営のモデルケースとなった。ウイルスは人間のつながりを引き離そうとする。困難に直面したとき、人間は届くところから手を取り合って耐え、つながりを強めてあらがい、打ち勝とうとする。(文中敬称略)【保坂恭子】(この項おわり)