野村克也が阪神監督になった99年の記憶だ。談話を取るためグルリと囲む虎番記者たちを試すように野村はいろいろな野球のクイズを出してきた。今でもハッキリ覚えているものはこんな感じだった。

<1>敵地で戦う試合は自軍が1点リードで迎えた9回裏2死満塁のピンチ。

<2>最後を託した投手が抑えれば1点差勝利。逆に単打でも浴びればサヨナラ負けの可能性が高い。

<3>この場面、最高の終わらせ方、つまり自軍の勝ち方はどういうものか?

いろいろと考えた。「内野は前に出ているだろうしゴロもいいけど間を抜かれるのはいやですよね」「失策もこわいから、やっぱりここは三振ですかね」。首をひねりながら言うと野村はニヤリ笑う。

「二塁走者をけん制で刺すんや。サヨナラ勝ちの生還を狙ってリードが大きくなりがちな二塁走者は、この場面できわどいけん制球が来るとはほとんど考えないもんや。そこをズバッと刺す。こんな気持ちのいい勝ち方はないぞ」

そのときは「ふ~ん」と思った。それがそんなに気持ちいいことなのかな。しかし20年以上がたち、多くの試合を見て、1点の意味を考えるようになって、その思考の深さが分かるような気がしてきた。

「それなんですよ」とその話に大きくうなずいたのは投手コーチの金村暁だ。「それができれば最高ですよね。ボクも現役時代、打者を抑え込むタイプの投手だったし、そういう感じが理想だった。投手によって考え方は違うけれど、ここ一番でそういうプレーができるようにキャンプの練習があると思うんです」。

指揮官・矢野燿大も「ああ」と野村の言ったことを思い出すような顔をして言った。「それはめちゃくちゃ質が高いことですよね。土壇場で投げている投手はそんな気にならんから」。

野村のクイズを思い出したのは16日楽天との練習試合だ。今季は抑えを期待される藤川球児が島内宏明に満塁本塁打を浴びた。球児はこれまで公式戦での満塁被弾はない。

三振を取れる球児は、正直、そんな思考をするタイプではないだろう。それを知りながら、今季、最終回にそんな危機が訪れたとき、こんな終わり方ができれば。最高の「野村追悼」だ。そんな妄想をしてしまった。宜野座キャンプ後半、実戦練習でさまざまな試みを見たい。(敬称略)

99年9月7日、中日戦でセーブを挙げた福原忍(右)と握手を交わす野村克也監督
99年9月7日、中日戦でセーブを挙げた福原忍(右)と握手を交わす野村克也監督