チームの勝利を心から願いながら、観戦に訪れたファンの笑顔のために、球場中を駆け回る人たちがいる。「プロ野球のお仕事」第2回は、巨人の試合を盛り上げる「ジャイアンツ ヴィーナス」の鮫沢真緒さん、森元芽依さん、ジャビットなど球団マスコット関連の業務に携わる「ラックス」の武内正和さん(50)を紹介する。

(2016年5月18日付紙面から)


チアとマスコット

 勝っても、負けても、ファンを笑顔にさせる。そんな存在も、プロ野球を支える。ヴィーナスに所属する鮫沢さん、森元さんは今日もまた、東京ドームを動き回る。チアと言えば、試合中のダンスが有名だが、内容は多岐にわたる。練習見学などの球場ツアーや試合前のステージイベント、試合中のスタンドでのイベント…。〝会えるチア〟とでも言えるだろうか。

ポーズを決めるジャイアンツ ヴィーナスの鮫沢真緒さん(左)と森元芽依さん
ポーズを決めるジャイアンツ ヴィーナスの鮫沢真緒さん(左)と森元芽依さん

 今季で3年目の鮫沢さんは「1年に1度かもしれませんし、その1日で心に残るような思い出を作るお手伝いができれば」。1年目の森元さんは「ツアーのルートや知識、話し方など勉強の毎日です。接する機会が多いですし、いろんなお話をして、喜んでもらえれば」とファンとの交流を大事にする。

 鮫沢さんは高校時代にチアダンス部に所属し、バスケットのbjリーグのチアを経験。3年間働いた後、「やっぱり、ダンスがしたい」と加入した。森元さんは中学時代に演劇を学び、役者活動をしながら、東京ガールズのチアを経験。「表現することが好きなんです」と志願した。書類選考の1次審査、2次審査(100人)、最終審査(50人)を突破。1分間の自己PRではともに歌った。

 ヴィーナスの1日は、試合開始の約6時間前からスタートする。ツアーの準備、ダンスの練習…。鮫沢さんは「うまくできない時は歯がゆい思いもしますが、シーズンが終わると、思い出すのは楽しいことばかり」と笑った。石川愛マネジャーは「野球少年が野球選手に憧れるように、女の子たちがこの仕事をしたいなと思ってくれれば、うれしいです」と願った。

 ヴィーナスとともに、球団マスコットに関連するステージ運営、ファンサービス業務に携わるのが「ラックス」の武内さん。94年から球団マスコットキャラクターに携わる仕事に従事する。マスコットの誘導やステージの司会など、裏方役に徹する。「決め事通りにはいきませんし、瞬時の判断が重要。1分、1秒の中での変化にどう対応するか」に気を配る。

 ゆるキャラブームの中、それとは一線を画す。紳士球団として、王道を守ることも大事という。かつて、エンターテインメント業に携わった経験から、武内さんは「わかりやすいのが一番。アドリブ=作り込んだものは、伝わりにくいんです。急に違うことをやると、お客さんも入っていけません」と説明する。

 今では球団マスコットとして、多くの人に認知されるが、始めた当初は〝邪魔者〟扱いだった。「今はお立ち台などで選手と絡むのは普通ですが、当時は『カメラに写るから、移動して』と言われたり」と苦笑する。だから「場の空気を読む。空気作りがとても大事なんです」とメリハリを重要視する。

 ラミレス(現DeNA監督)が巨人時代には、毎年パフォーマンスの打ち合わせが行われた。「『今年はこういう風にいくぞ』と打ち合わせして。でも、試合の進行を妨げないようにだけ注意して」と回想した。「勝敗とは別に、球場に来て良かったなと思ってもらえるように」。ファンの笑顔の先で、球場周辺を駆け回る。【久保賢吾】