4日に還暦を迎える東邦・森田泰弘監督は「人生でこんな幸せな誕生日はない」と穏やかに笑った。選手からの最高の贈り物だ。

昨年12月に腎移植手術を受けた。約6年前から腎不全を患っていた。監督業は腎臓病患者にとって最悪という。立ちっぱなしで土ぼこりも吸う。食事の最中に嘔吐(おうと)を繰り返した。遠征がつらくて家族に「帰りたい」と弱音を吐いたこともあった。

親族の腎臓を譲り受けることになったが、ドナーは健康体。腎臓を1つ失うことで生まれるリスクを聞き、悲嘆に暮れた。だが手術を受ければセンバツに間に合うことを知るドナーから「移植しない選択肢はない」と後押ししてもらった。今年で定年。監督業は来年3月いっぱいのあと1年と、前から決めている。野球人生を悔いのないように-との思いを受け止めた。

「私の1年ごときのためにいただいた。何が何でも優勝しないといけない」。初めて優勝宣言を繰り返した本当の理由はここにあった。大会直前、選手に「優勝できたら俺は死んでもいい」と覚悟を伝えた。

40日間の入院中は選手からの寄せ書きに涙した。再びユニホームを着たのは3月8日。自主的に課題に取り組む選手の姿に驚いた。「俺がいなくてもいいんだ。小じゅうとみたいにうるさく言ってきたけど、晩年になってやっと分かった」。選手への信頼が増した。

昔は100キロあった体重は75キロまで落ちたが、今は健康体。指揮官として初V、同校のセンバツ単独最多5度目Vを成し遂げ「これで心おきなく野球を離れられます」。晴れやかな表情だった。【柏原誠】

◆森田泰弘(もりた・やすひろ)1959年(昭34)4月4日、愛知県生まれ。77年、東邦の主将として3年夏の甲子園準優勝。卒業後は駒大、本田技研鈴鹿(現ホンダ鈴鹿)でプレー。83年に東邦のコーチに。04年から監督。甲子園は春が05年、16年、18年、19年の4度。夏は08年、14年、16年の3度出場。現役時代は内野手。