右打者史上、最年少で2000安打を達成した巨人坂本勇人内野手(31)。その打撃には、高度で多彩な技術がちりばめられている。日刊スポーツ評論家の和田一浩氏(48)が、連続写真でフォームを分析する「解体新書」で、その技をひもといた。

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今季、史上最年少での通算2000安打がかかっていた坂本だが、コロナの影響で開幕が遅れ、残念ながら達成はできなかった。それでも、右打者での最年少記録を更新。しかも、高い守備力が要求されるショートを守っていることを考えれば、これまで2000安打を達成した歴代打者の中でも、トップクラスの選手だと断言できる。打撃フォームを見ても、ほれぼれするような多彩な技術を持っている。

まず、どっしりと構えた<1>のスタンスに特徴がある。軸足の右膝を開き気味に外側に向け、スタンス幅は広い。重心を低くして構えるタイプは、全身を器用に扱いやすいコンパクトな体形や、動きを小さくしてもパワーで補える外国人打者に多いが、坂本は長身でスリムな体形。スタンスを広くするデメリットは体が回転しにくく、きれいな軸回転が出来なくなる点で、坂本のような体形にはむかないように思えるが、柔軟性とバランス感覚で補い、それを可能にしている。

素晴らしいバランス感覚を証明しているのが、<2>~<4>にかけての左足の動き。ワイドなスタンスをとる打者は、すり足気味に足を上げたり、リズムを取るようにかかとだけをちょこんと上げて打つタイプが多い。これは、下半身をどっしりとさせて構えるため、踏み込む足を大きく使うと、それだけ体のぶれ幅が大きくなるからだ。しかし、坂本は左足を放り出すようにステップしている。卓越したバランス感覚以外にも、強靱(きょうじん)な下半身の筋力がなければ、これだけぶれずに下半身を動かせない。

左足を踏み込んでいく<5>がトップの形。左足を投手側に踏み込んでいくが、グリップの位置が少しだけ高くなり、バットの先も少しだけ投手側に入っただけで、上半身はほとんど動いていない。必要最小限の動きを入れながら、後方にグリップを残すようにして、大きくてきれいな“割り”を作っている。参考までに話しておくと、坂本とは逆に上半身を大きく動かし、下半身の動きを小さくして“割り”を作るタイプや、私のように上半身と下半身をともに大きく動かして“割り”を作るタイプもいる。打撃において“割り”はとても重要で、どの作り方が自分に合うかは、練習で見つけてほしい。

坂本の素晴らしい技術の特徴は、ボールを打ちにいく<6>からインパクトの<8>までのスイング軌道にも表れている。<6>では右膝が内側に折れずに粘れていて、<7>では捕手側の後方からバットが出ている。だから<8>のインパクトまで、レベルで振れるゾーンが長い。しかも、この連続写真で打ったのは高めに抜け気味になったスライダー。やや体勢を崩しているにもかかわらず、これだけ上半身が前に突っ込まず、粘って打てる打者は、そうはいない。これだけ早く2000本を打てる最大の要因だろう。

<9>と<10>のフォロースルーは大きくていいが、特にいいのが<11>のフィニッシュ。グリップが肩のラインより下に収まっている。これが高い位置だと、スイングした力がロスして強い打球が打ちにくくなる。どんな高さの球を打っても、これぐらいの位置に収まるのが坂本の特徴。長打を打てる要因の1つに挙げられる。

今回の解体新書では詳しく紹介できなかったが、内角高めの直球を打っているシーン(16年7月30日ヤクルト戦)を見てほしい。左肘を抜くように、左脇を空けて打っているのが分かるだろう。坂本はリードする左腕の使い方がとにかくうまい。内角球は差し込まれやすく、バットのヘッドをこねるように使いがちだが、左肘を抜くように使うことで、ヘッドを返さずにインパクトしている。これが内角球に強い秘訣(ひけつ)。以前は左脇が空きやすいことで外角球を強く打てなかったが、今はコースによって左肘を使い分けられるように進化している。

常人ではまねしにくい高度な技術をいくつも持っている。それを使い分ける才覚があるから、ここまでの数字を残せる。このまま大きなケガさえなければ、あと1000本ぐらいは楽に積み上げていけると思う。