日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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甲子園歴史館がリニューアルオープンした3日は、阪神の名三塁手で、“鉄人”の異名をとった三宅秀史の命日だった。ショート吉田義男との三遊間コンビは史上最強だったという。

久しぶりに吉田と待ち合わせをしたのは、甲子園近くのこぢんまりした喫茶店だった。オープニングでテープカットのお手伝いをしてきたらしい。球団史上唯一の日本一監督の称号は今でも効果抜群だ。

カウンターだけの店では、コーヒーがでてくる前に、頼んでもいないお茶菓子のサービスを受けた。さすが、よっさん…。そう思っていたら、すぐに隣のオッチャンにつかまった。

タイガースのロゴ入りキャップをかぶった西川治雄は「吉田さんと三宅さんの三遊間といったら、サーカスを見てるようなもんですわ。三宅さん? トンネルなんてみたことありません」とまくし立てる。

強烈なファンの西川は生き字引のような人物らしく「子供の頃は甲子園でホタル狩りもやったんです。照明を消してね、ホタルを飛ばすんですわ。入場料? 有料でした。ねっ、監督(吉田氏)?」としゃべり続けた。

三宅の手堅い守備は、巨人監督だった水原茂から「長嶋よりもうまい」と認められた。阪神では追悼試合に値するような功労者のはずだ。1年前に盟友を亡くした吉田は「オーソドックスで、基本に忠実だった」という。

「三宅は三遊間、ぼくはセンターに抜けそうな当たりに強いから、2人でカバーし合った。ぼくは体が小さいから、とにかく捕ったら早くボールを投げることを心掛けたんです。人工芝の球場が出てきて守備に対する考えも変わった。でも基本は変わらない」

吉田は「甲子園では内野手が育つ伝統があった」という。そういえばかつて評論家としてキャンプ視察した吉田は、今岡誠の初日の動きをみて「今夜、ぼくの宿泊するホテルに来るよう伝えてほしい」とマネジャーに申し渡した。

吉田は今岡に懇々と守備の重要性をたたき込み、気持ちを奮い立たせるのだった。迫真のやりとりを目の当たりにし、「伝統」とはこのように継承されていくのだろうと思ったものだ。

今年も阪神は守備力アップが課題といわれる。吉田は歴史館にディスプレーされている大山のグラブの前で立ち止まった。「少し小さめですかな。期待? 本人に会う機会があれば直接言いますわ」。守備の達人は、そう言い残して去っていった。(敬称略)