すでに甲子園上空に、雷雲がじわりと忍び寄っていた。7回に飛び出した阪神糸原健斗内野手(31)の一打は大きな意味を持っていた。代打のスペシャリストが黒星を回避した。

0-1のまま終盤戦へ。粘りながら最少失点に抑えてきた先発村上を見殺しにはできない。7回。1死二、三塁の逆転チャンスがやってきた。一番の勝負どころで村上に代わってコールされたのは糸原だった。

カウント2-1の打撃カウント。冷静にタイミングを取り、内角高め149キロを狙いすまして、たたいた。強くとらえた打球はライナーで右中間へ。右翼佐々木に捕球されたが、植田が間一髪でホームに突っ込み、セーフをもぎ取った。

「植田に聞いてください。よく走りました。植田に感謝しています」。背番号33はそれだけ言って、ロッカールームに引き揚げた。3月31日の巨人戦(東京ドーム)で、代打で二塁にゴロを転がして打点を挙げて以来の今季2打点目。その時の走者も植田だった。俊足ランナーが塁にいる際の打撃も心得ている。

岡田監督になった昨季から代打が主戦場になった。悔しさは胸に秘めるが、モチベーションは高い。完全に調整を任された8年目は初の春季キャンプ2軍スタート。逆に存在感を高めた。「はつらつとやるのがテーマですから」。アップから高卒新人らよりも声を出した。周囲を驚かせたのはキャンプ初日のフリー打撃。鋭いまなざしで打席に入り、その1球目から完璧なセンター返しをしてみせた。打ち損じのない練習を繰り返し、和田2軍監督は「あれが1軍の主力」と原口と糸原を絶賛した。

完璧な準備で、仕事をこなす男がいるからチームは強い。勝利には結びつかなかったが、バットマンがあらためて存在感を示した。【柏原誠】

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