米FOXニュースのベテランキャスター、グレッチェン・カールソンが同局CEOのロジャー・エイルズをセクハラで訴えたのは4年前。前回の大統領選で、トランプ候補の異色キャラが注目を集め始めた頃だ。

シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーの3女優がそれぞれに個性を立てる「スキャンダル」(21日公開)は記憶に新しい題材に登場人物も生々しい。

FOXニュースの看板キャスター、メーガン・ケリー(セロン)は、トランプ候補の女性蔑視発言を追求したために、彼からの執拗(しつよう)なツイート攻撃を受けている。

そんな時、朝の顔から昼番組に「降格」されたベテランキャスターのカールソン(キッドマン)は冷遇の理由が、CEOのエイルズ(ジョン・リスゴー)から迫られた性的関係を拒否したため、としてセクハラ告訴を決意していた。

一方、ケリーの下で働くケイラ(ロビー)はスターキャスターを夢みて幹部への働きかけを続け、エイルズとの面談にこぎ着けるが、そこで屈辱的な要求をされる。

カールソンの告訴が公になると、過去にエイルズから同様の要求を受けたケリーは複雑な思いに駆られる。同調したいのはやまやまだが、キャスターとしてのイメージが傷つくのではないか、エイルズとの関係を疑われるのではないか…1つのセクハラ行為がまき散らす「被害」の広がり、罪深さが彼女のためらいから浮かび上がる。

そして、エイルズや男性社会への怒りを必死に封じ込めていたケイラの心の中でも、そんな思いが渦巻き始める。セクハラ告訴はカールソンの個人的問題にとどまるのか、それとも…。

ケイラは複数のキャラクターを組み合わせて創造した人物だそうだが、ケリーとカールソン、そしてエイルズは実在の人物だ。

演技巧者3人がそれぞれに「本人像」に迫り、特殊メークもかなりエグい。セロンは「見ている人に早く私が演じていることを忘れて欲しかった」と、著名俳優ならではの思いを明かしている。米テレビ局の経営者はもちろん、ニュースキャスターの顔にも見覚えがあるわけではないが、作品資料の写真で比べてみると、よくぞここまでというメーキャップだ。「ウインストン・チャーチル」(17年)のゲイリー・オールドマンばりである。そのはずだ。担当は「-チャーチル」でアカデミー賞となり、今回も候補となったカズ・ヒロ(辻一弘)さんなのだ。

番組関係者には入念な取材が行われたそうで、実話に真正面から取り組む米映画界の胆力を改めて実感させる。本筋の裏で、泡沫(ほうまつ)候補からいつの間にか本命に躍り出るトランプ氏の影が見え隠れし、時代と世論の移ろいを映す絶妙な背景となっている。【相原斎】

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

「スキャンダル」の1場面 (C)LionsGateEntertainmentInc.
「スキャンダル」の1場面 (C)LionsGateEntertainmentInc.