サルバドール・ダリ(1904~1989年)と聞いて頭に浮かぶのは、文字通りシュールな作品群と、ピンと跳ね上がった口ひげの怪しすぎる風体だ。
「ウェルカム・トゥ・ダリ」(9月1日公開)は、その怪しさが頂点に達していた70年代中盤の姿を、ひょんなことからダリ夫妻の信頼を得た画廊勤務の青年の目を通して描いている。
画廊オーナーから、個展準備のためにニューヨークのホテルに滞在中のダリへの言づてを預かった新米のジェームスは、そこで奇妙な光景を目の当たりにする。
奇行で知られたミュージシャンのアリス・クーパーら時代を象徴するアーティストに加え、半裸のモデルがうごめくパーティー状態。その中心にいるダリは個展を3週間後に控えながら、創作に取りかかる様子がまったくない。
ダリのアート制作を管理する妻のガラに別室に呼ばれたジェームスは、彼女にいきなり股間をつかまれてぼうぜんとする。肉食系のガラは美青年に目がなく、それを黙認するダリはトランスジェンダーのアマンダをミューズとしてそばに置いて創作の原動力にしていた。
パーティー三昧の日々は続き、個展開催まで3日と迫っても絵は1枚も出来上がらない。オーナーの催促にさすがにジェームスが焦りを募らせた頃、突然ガラが激怒し「貧乏はたくさん! お金よ!」とダリを罵倒し始める。
待っていましたとばかりに目を輝かせたダリは、ジェームスを助手に信じられないようなスピードで創作に取りかかる。震えていた手はウソのように巧みに筆を運び、呼び出されたモデルたちのヒップを題材に奇想天外な傑作が次々と仕上がっていく。
「I SHOT ANDY WARHOL」(96年)でデビューしたメアリー・ハロン監督は、この序盤で夫妻の関係性と芸術家としての確かな手腕を一気呵成(かせい)に見せて、引き込んでいく。
後半はダリの故郷、スペインのポルト・リガトに舞台を移し、ダリ・ワールドは加速度的に奇天烈度を高めていくのだが、夫妻が出会った頃の回想シーンも絡んで、奇妙な2人の関係に興味は尽きない。
ダリに成りきったのはオスカー名優ベン・キングスレー。
「ガンジー」(83年)でPR来日した時に、成田空港で生身の彼を取材する機会があった。劇中で見た「歴史上の偉人」が、妻子連れのあまりに普通のオジサンだったことに驚いたことを覚えている。今回も「ガンジー」の時を思い出させる変身ぶりだ。
ガラ役は「鉛の時代」(81年)で知られるドイツの名優バルバラ・スコヴァ。肉食系でありながら実はダリへの純愛を貫き、わがままと繊細さを併せ持つ複雑な女性を説得力のある演技で体現している。
ジェームス役には新鮮さも求めて英米の演劇学校の膨大な卒業者名簿から選ばれたクリストファー・ブラウニー。アマンダ役にはトップモデルでトランス女性でもあるアンドレア・ペジックと、ハロン監督は万全のキャストを配している。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)




