2019年度の菊田一夫演劇賞の授賞式が17日、都内で行われた。45回を数える歴史ある演劇賞だけれど、今回は例年とは授賞式の様子が異なった。いつもなら、演劇関係者が数多く集まり、伝統ある賞にふさわしい華やかさがあった。しかし、今年は新型コロナウイルスの影響もあって安全を第一に、授賞式も15分ほどとシンプルで、出席したのも受賞者と選考委員に加え、20人ほどの取材陣と関係者だけだった。さらに壇上の表彰者と受賞者の間にはアクリル板スタンドが設置された。

しかし、受賞者の喜びのコメントは、いつにも増して熱く、今だからこそ舞台への思いにあふれていた。堂本光一は「受賞を聞いた時はびっくりして、まさかと思いました」と明かした。昨年7月、「SHOCK」の生みの親ジャニー喜多川さんが亡くなった。「自分が今ここにいるのはジャニーさんのおかげ。ジャニーさんがいない中でやってみて、本当にたくさんの重責を背負って生きてきたんだなと感じたし、一緒に作り上げてきたものの良さを、今後も絶対になくしてはならないと思った。世の中がこういう状況になって、ジャニーさんならどうするの? と聞きたいけど、まだ返事はありません」。

大賞は森繁久弥さん、森光子さんらそうそうたる名優が名を連ねており、堂本は最年少受賞となる。「恐ろしくなるような偉大な方ばかりで、背筋が伸びます。賞に恥じないものにしなければと感じました」と決意を新たにし、「エンターテインメントの力を信じながら、みなさんが心から楽しめる時間が戻ってくることを願っています」と力を込めた。

蜷川幸雄演出「海辺のカフカ」、4時間を超える「終夜」で受賞した岡本健一も「生前に森(光子)さんから菊田先生に稽古で鍛えられ、しごかれた話や功績について伺っていたので、何よりもうれしいし、ありがたいです」と喜んだ。

ミュージカル「ビッグ・フィッシュ」で受賞した川平慈英は「最高、クゥーー!」と手ぶりをまじえて喜びを表現し、「なんて自分は幸せ者なのかとシャウトしてしまいました。母はずっと(芸能界入りを)反対していたので、やっと天国の母に親孝行できた」と顔をほころばせた。

「天保十二年のシェイクスピア」で受賞した高橋一生も「こんなに光栄な賞をいただけるとは思っていなかったので、とてもうれしいです」と素直に喜んだ。「天保-」は千秋楽前に中止となったが、「時期も時期でしたので、いろいろな思いが混じり合っていましたが、芝居に真摯(しんし)に取り組んでいこうという気持ちが一層高まった」。劇中では歌にも挑んだが、「久しぶりの舞台で歌うのはハードルが高かった。最初の歌のレッスンで『きっと大丈夫だろう』と言われたけど、『きっと大丈夫じゃないだろう』と思っていました」と苦笑した。

「リトル・ウィメン~若草物語」「天使にラブソングを」で受賞の朝夏まなとも「舞台に立てることが当たり前でなくなった時、あらためて私は舞台に立つことが好きなんだと心から思いました。新しい日常で自分にできることを模索しながら精進します」と話した。

堂本は8月に2年前に上演したミュージカル「ナイツ・テイル」をシンフォニックコンサートとして行い、岡本は10月に「リチャード二世」に主演する。川平は今月27日から三谷幸喜作・演出「ショーガール」に出演し、朝夏は10月にミュージカル「ローマの休日」が待っている。舞台に立てないという長い日々が続いた中、演劇人として舞台に立つという日常がようやく戻ってくる。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)