AKB48グループ3代目総監督の向井地美音(22)が、各界のリーダーから「リーダー論」を学ぶ連載を約4カ月ぶりに再開します! 第6回からは、著書「メモの魔力」がベストセラーと好評で、仮想ライブ空間「SHOWROOM」を運営する前田裕二社長(33)の登場です。前編では、前田社長がリーダーとして必要と考える「3か条」について話を伺いました。【取材・構成=大友陽平】

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SHOWROOM前田裕二社長(右)の誕生日をオンラインで祝福するAKB48向井地美音
SHOWROOM前田裕二社長(右)の誕生日をオンラインで祝福するAKB48向井地美音

向井地 今日はよろしくお願いします! そして…お誕生日おめでとうございます!(取材前日が前田社長の誕生日)

前田 うれしい! ありがとうございます。ビックリしました…。33歳になるんですけど、気合を入れ直して頑張ります。向井地さんは、一度ラジオ(TOKYO FM「SHOWROOM主義」)に来てくれたことがありましたよね?

向井地 はい!

前田 覚えてますよ! 「元々自分がAKBが好きで入って…」という話に感銘を受けて、その後にも、いろいろなところで話しています。好きが高じて熱中して、夢をかなえていくって、ものすごくすてきなことなので。

向井地 ありがとうございます! 早速ですが、前田社長が、リーダー(社長)として意識されていることは何ですか?

前田 リーダーとして意識していることは、大きく分けて3つあります。1つ目は、仲間を「愛すること」です。ベンチャー経営ではよく、「ラポールの形成」と言ったりします。端的に言うと、ある人が会社でどのような価値を出してくれるのか、ということはいったん二の次に置いて、「その人の人生の幸せを増やすために何が出来るのか?」と、まず仲間の幸せを本気で考えることです。例えば、SHOWROOMは現在200人近い仲間がいるんですけど、みんなの誕生日をカレンダーに入れていて…。

向井地 すごい!

前田 例えば、午前0時になる瞬間にメールを送るとか。日頃の感謝って、なかなか伝えにくいじゃないですか? 「その人が自分の事を好きな度合い」より「自分がその人を好きな度合い」の方が大きくなるようにします。てんびんを偏らせる。それが大前提です。もちろん愛し方もさまざまだと思うんですけど、例えばその人の親が、自分の著書を読んでくれているとしたら、「●●くんを生んでくれてありがとうございます」とか「会社ではこういう感じですよ」というのを書いた手紙を送ったり…。「大事な人の大事な人までを大事にする」というのがポリシーです。

向井地 いきなり、勉強になります!

SHOWROOM前田裕二社長(右)のリーダー論に迫ったAKB48向井地美音
SHOWROOM前田裕二社長(右)のリーダー論に迫ったAKB48向井地美音

前田 2つ目は、仲間を「ワクワクさせる」ということです。ワクワクさせる力は、リーダーには不可欠だと思います。参考になる動画があって(YouTubeなどで公開の「Leadership From A Dancing Guy」)。これは、広場である男性が踊りだして、周りは最初は傍観しているんですけど、徐々に一緒に踊りだす人が増えていって、最後は大騒ぎになるという動画なんですけど、この中で、一番重要な人は誰だと思いますか?

向井地 リーダーの次に踊った人ですかね?

前田 その通り! つまり2人目に踊った人ですね。その人を、「ファーストフォロワー」と呼びましょうか。この動画で、一番重要な登場人物です。リーダーの「最初に勇気を出して踊った」というところももちろんすごいんですが、この段階ではリーダーでも何でもなく、ただの陽気なおバカさんなわけです(笑い)。このリーダーをリーダーたらしめたのは、ほかでもない、2番目に踊った「ファーストフォロワー」の人です。この人が登場して、グッとリーダーがリーダーらしくなる。「あ、踊っていいんだ」と、そのあとにどんどん人が続きますからね。この動画におけるリーダーのすごさは、最初の一歩の勇気、というより「一緒に踊ってくれる人」を作れた、ということ。つまり、誰かをまず具体的にワクワクさせて、小躍りさせてしまうリーダーが、最強ということです。ただ周りの人をつかまえて「愛してますよ」「こういうことをやってください」と話しても、普通はやってくれません。一緒にバカになって踊ってくれる2人目を作れるか? ということが、リーダーの本質の1つだと思っています。

向井地 なるほど…

前田 「ワクワクさせる」ことが大事なのは、AKB48でも、会社経営でも同じだと思います。そしてこの「ワクワクさせる」ためには公式があると思っていて、それは「視座×視点=希望」ということです。

向井地 「視座」というのはどういうことですか?

前田 「視座」というのは、いわばビジョンです。例えば、いつかドームでコンサートをするという目標があったとしたら、リーダーは「いやいや、そこは違うでしょ。(ニューヨークの)マディソン・スクエア・ガーデンでしょ」とか、2段階くらい高い「視座」を示してあげることが重要です。例えば僕で言えば、SHOWROOMが、世界1位のIT起業になるにはどうしたらいいかを真剣に考えるんですが、周囲からすれば「無理では?」ということに挑戦する道中で、自分自身、つぶれるくらい頭を使って、「これだったらいけるかも?」ということもちょっとずつ見えてきます。

向井地 「視点」はどういうことですか?

前田 「視点」は、「到底無理だと思ったけど、この切り口だったら、本当に実現できるのではないか?」という視点を、高い視座に対して見いだすことです。「視座」が高い目線なら「視点」は具体的な達成方法ですね。例えば落ち込んでいるメンバーがいた時に、まず「何を欲しているのか?」「どこに向かいたいのか?」を聞いて、「視座」を引き上げます。

向井地 例えば、そのメンバーが選抜に入りたいと言うのであれば…。

前田 「選抜に入るのは当たり前でしょ? せっかくなら、海外で活躍する国際的アイドルを圧倒するくらいのところまでいこうよ」と「視座」を上げてあげます。でも、それだけ言ってもおそらくイメージがわかない。だとしたら、例えばAKB48グループはアジアにもファンが多いので、「アジア人気をさらに引き上げる方法があるのでは?」という切り口で考えてみる。インドネシアではフェイスブックがたくさん見られているし、タイではTikTokがはやっているのなら、自分でそれぞれのSNSアカウントを作ってみて、現象を巻き起こしてしまえば、AKBにとって当然必要な存在になるし、選抜も気付けば選ばれるでしょう。それが「視点」ですね。そういった具体現象を10個くらい積み上げたら、本当にアジアで、ファンが今の数倍とか、あるいはそれ以上に一気に増えるかもしれない。こうして、高い「視座」と、具体的な「視点」を掛け合わせれば、不思議と「希望」が生まれる。それが強力な原動力になる。そうすると、メンバーの目に映る日々の景色も、ちょっと違って見えるはずなんです。

向井地 確かにそうですね!

前田 もしかすると、そのメンバーは元々、「国際的アイドルを超える」という発想すら持っていなかったかもしれません。小さな目の前の果実だけを追い求めても、その果実が落ちてこないのがこの世界なんです。大事なのは、視座と果実(結果)の順序をはき違えないこと。AKBなら「選抜に入りたいです」、会社なら「給料を上げてください」とかが皆さんが望む果実なわけですが、それが先なのではなくて、むしろその逆。「視座」高く頑張っている人は、そこまで果実を追い求めずとも、気が付けば自分から果実がカゴの中に入ってくる。「視座の高さ」の具体イメージとしては、例えばAKB48であれば秋元康さんの目線に立っているくらいじゃないといけないのでしょう。きっと、たかみな(高橋みなみ)さんや指原(莉乃)さんって、そんな感覚を持っていたと思うんです。まさに高い「視座」でもって、周囲に希望を与えていたのだと思います。

向井地 なるほど…。ありがとうございます! 最後の3つ目の要素は何でしょうか?

前田 3つ目は少しドライなんですけど、「とにかく高いレベルを求める」ということです。「視座」の話に少し似ています。これをやると、基本嫌われます(笑い)。僕でいえば、例えば社員から500万円を使いたいという提案があったとします。僕は「その500万円にどんなメリットがあるの? もっと下げられないの?」と追及していくわけですが、そこで説明できなかったり、僕から論破されたりするわけです。そこで深く突っ込まず、「最高だね!」ということもできるんですけど、自分のところに持ってくる提案には常に緊張感を持ってもらいたいと思っています。ロールプレーイングゲームなら、勇者と、最初に出てくる系のモンスターが対決した時、そのキャラの容姿を「かわいいね!」となでてあげることもできるんですけど…。

向井地 私、そうやってしまうタイプです…(苦笑い)。

前田 僕は割と、いきなり剣で切っちゃう(笑い)。しかも普通の切り方ではなくて、剣に炎をつけて切ってしまう。でもそうすると、切られた方も「自分には剣がない…」「剣から炎を出せるんだ…」とか、ちょっと違う次元を感じることができます。そしてよみがえり、その剣を手に入れたり、炎の出し方を覚えてからまた挑んできたりする。つまりリーダーは“戦闘力”も高くないといけないのだと思います。逆にこういうことをするので、先ほど挙げた1つ目(愛)と2つ目(視座と視点によるワクワク)の要素が重要なんです。切り刻まれたキャラが腐って再生するのをやめる、とならずに、もう1回挑戦しようと思ってもらいたいわけですが、その時に、心のつながりがあるとか、絶対にこの壁を越えたいというワクワク感がないと、その気力を失ってしまいます。愛とワクワクと力。この3つの要素で、仲間を引っ張るようにしています。

向井地 意識するようになったのは、リーダーになってからですか?

前田 僕は投資銀行で営業の仕事をしていて、その時は、「お客さんに対する愛」はすごくあったんです。でも仲間に対する、揺るがぬ愛はあったか? というと、今より弱かったのかもしれない。もちろん仲間のことは大好きなのですが、何よりそこは、他のメンバーより高い成績を残さないといけない“戦場”でもあったので。AKB48でも、人気の差が如実に出てしまうこともあると思いますし、全くもって、生ぬるい世界ではないはずです。いざリーダーになってみると、それだとダメだと気付くはず。つまり、「自分の力だけで到達できる限界地点」に気付いて、全体で強くならないといけない、と考えられるようになると思うんです。例えば、自分よりも優秀な人材を集めて、うまく力を引き出していくという発想がまず必要です。だから今も、うちの会社には自分より優秀なメンバーが多いな、と感じます。プレーヤーの時はそれが悔しいと思ってましたけど、うれしいと思えるようになったのはリーダーになってからですね。向井地さんもそんな経験はありましたか?

向井地 昔は「自分! 自分!」と思っていたかもしれないですね。自分が上にいくことで、周りを引っ張ろうと。確かに総監督になってからは、グループ全体が上にいけるようにと思うようになりました。良いことなのかは分からないですけど、メンバーへのライバル心は減ったかもしれないです。

前田 ライバル心を向ける相手が変わってるんじゃないですか? メンバーではなくて、例えば、他のアイドルグループとか…。

向井地 昔のAKB48に勝ちたいとか…。

前田 いいですね! そういう時って、僕はよだれが出るくらい楽しいんです(笑い)。ファンの皆さんなど、オーディエンス側もそうかもしれませんよね。例えば、(韓国ドラマの)「梨泰院クラス」のように、「いつか強者を倒す!」と、まだ弱き者が強き者に勝つべく、野心を持って一生懸命頑張る過程を見るのは、特に日本人は好きだと思います。

向井地 みんなで共通の目標を持つことはやっぱり大事ですよね?

前田 まさに、そこは非常に大事ですし、ほかでもない、リーダーが描いてあげないといけない部分ですね。僕の話でいうと、「視座」にあたる部分ですが、リーダー自身の「視座」がいつしか、メンバーの「視座」にちゃんと乗り移っていくように、自分自身も毎日ワクワクしながら、繰り返し同じビジョンを伝え続けることが大切です。これはとても大変な仕事ですが、向井地さんなら、必ずできますよ。(次回につづく)

SHOWROOM前田裕二社長
SHOWROOM前田裕二社長

◆前田裕二(まえだ・ゆうじ)1987年(昭62)6月23日、東京都生まれ。早大政経学部卒業後、外資系投資銀行に入社し、ニューヨークでも活躍。13年5月にDeNA南場智子会長との縁でDeNA入り。同年11月に「SHOWROOM」を設立。17年6月に初の著書「人生の勝算」を発売。18年12月発売の「メモの魔力」(ともに幻冬舎)は、売り上げ60万部(電子版含む)を超えるベストセラーに。現在、日本テレビ系「スッキリ」でコメンテーター。