江口のりこ(43)が、吉田修一氏の13年の小説を映画化した「愛に乱暴」(8月公開)に主演することが20日、分かった。小泉孝太郎(45)演じる冷徹な夫に、まるで空気のように扱われ、日常が乱れていく妻を演じる。映像美に定評がある森ガキ侑大監督の手で、史上最高に美しく映し出された江口がスクリーンの中で壊れていく様は必見だ。

江口が演じる初瀬桃子は美しく、尽くす妻だが夫の真守に全く顧みられない。子どもを望むもベッドで背を向けられ、不倫の影を感じていた中、不倫相手に妊娠させたことまで告白される。役どころについて「映画の中で迷い、暴走し、自分の居場所を見つけようとする女性」と評した。そもそも原作のファンで、森ガキ監督が手がけた脚本にもほれ込み主演を決めたが「原作が面白すぎて、映画化するハードルの高さにモヤモヤしていた」と葛藤もあった。それでも「撮影現場で監督の映画作りの情熱や共演者の方々のお芝居に引っ張られ、吹っ切れ真夏の暑さとともに夢中で撮影しました」と振り返った。

明るく清廉なイメージとは正反対の、かげりのある真守を演じた小泉の演技も出色だ。「この映画では僕は非常におとなしい男ですが、実は乱暴な男なのか、奥さんの桃子が乱暴な女性なのか、ごくごく普通の当たり前の感情を持っている夫婦なのか、観て下さった皆さんがどうとらえるのかとても興味があります」とコメントした。真守の不倫相手・三宅奈央を馬場ふみか(28)真守の母照子を風吹ジュン(71)が演じる。

出演者、監督、原作者のコメントは、以下の通り。

江口のりこ(初瀬桃子役)原作である吉田修一さんの小説「愛に乱暴」が面白すぎて、映画化するハードルの高さにモヤモヤしていました。しかし撮影現場で、監督の映画作りの情熱や、共演者の方々のお芝居に引っ張られ、森ガキ組の映画としての「愛に乱暴」を作ればいい!と吹っ切れ、真夏の暑さとともに夢中で撮影しました。今回演じた桃子というキャラクターは、映画の中で迷い、暴走し、自分の居場所を見つけようとする女性です。みなさま、是非劇場でご覧になって下さい。

小泉孝太郎(初瀬真守役)森ガキ監督とは撮影前に役柄について細かく話す機会をいただき、そこでいろいろ話せたので、真守の独特なキャラクターを固めることができたことに感謝しています。真守は何を考え、どんな感情で今いるのか、非常に分かりづらい男だと思います。炎天下での撮影でしたが、そういうとこでも暑いのか暑くないのか、そういう人間の見えやすい感情さえも隠れてしまうような独特な男です。個人的には江口さんと炎天下でもたくさんの雑談ができて、役では一切笑わないのに、雑談ではずっと笑っていたような記憶があります。たくさんコミュニケーションを取ってくださった江口さんには感謝です。この映画では僕は非常におとなしい男ですが、実は僕が乱暴な男なのか、奥さんの桃子が乱暴な女性なのか、それともごくごく普通の当たり前の感情を持っている夫婦なのか、観て下さった皆さんが「愛に乱暴」というタイトルの意味をどうとらえるのかとても興味があります。

風吹ジュン(初瀬照子役)「愛に乱暴」の脚本と出会い、読むとサスペンスチックに心かき立てられる脚本で、どんな映像になるのかが、私がそそられた部分でした。心理描写が重要で、役者としてのキャラ作りの課題が大きく面白そうで私には断る理由はなく、主演が江口のりこさんと聞いて、二つ返事でした。撮影中は、森ガキ監督が映画に対して“ガキ”そのもの(笑)で、遊び心を忘れず初めから最後まで本当に楽しそうでいらして。演じた照子は、普通によく居そうな息子愛の強い母親だと思いますが、江口さん演じる桃子からの捉え方で嫌な人物に見えていれば私としては成功かなと思ってます。「愛に乱暴」は見る方おのおのの楽しみ方が有る作品だと思いますので、ご覧になる方の感性に期待しております。

馬場ふみか(三宅奈央役)森ガキ監督は11シーンごとに役者と言葉を交わし丁寧に映画をつくっていく姿がとても印象的で、そんな作品に携われたことが、とても幸せだなと感じる撮影でした。三宅奈央を演じる日々は、暑い夏の撮影でしたが役柄も相まって今まで味わったことのない鋭い緊張感で指先が悴((かじか))み、撮影が終わった瞬間に肩の力が一気に抜ける感覚を覚えています。ぜひ、劇場で体感していただけるとうれしいです。

森ガキ侑大監督 この原作を読んだ時に「今」映画化する意味があると強く感じました。現代は生産性ばかりを求めている社会が存在していて、世の中の隅に追いやられ孤立している人がいる気がしていました。主人公の桃子は社会の中で葛藤を抱き、もがきながら一生懸命に生きています。桃子の姿は時にユーモラスで、時に刺激的で読んでいる自分の心を動かしました。原作者である吉田修一さんとお会いし、映画化を許可して頂いた時の喜びとプレッシャーは今でも心の奥に残り続けています。この素晴らしい原作を繊細に、そして大胆に演出しました。灼熱(しゃくねつ)の太陽の下、江口さんを始めとする素晴らしい役者陣とスタッフが一緒に死にもの狂いでフィルムに焼き付けた本作には奇跡の連続が宿っています。スタッフ全員で紡いだこの映画が多くの方に届くと強く信じています。

吉田修一氏 記録的猛暑となった昨年の夏の盛り、神奈川県郊外の撮影現場を訪ねた。これまで何度となくこういった現場には足を運んできたが、こんなにも雰囲気の良い現場は初めてだった。汗まみれのスタッフも熱演するキャストも撮影に協力してくれているご近所の方々も、夏の長い宵の中、誰もが美しかった。今この場所で1つの奇跡が生まれようとしているのが分かった。森ガキ監督の情熱に、江口のりこという俳優の肉体に、スタッフの方々の汗に、この土地が味方してくれているのがはっきりと伝わってきた。1人でも多くの方にこの映画を見ていただきたいと切に願っております。