「ちょっと間が悪いよね」。お盆休み期間中に政界関係者と電話で話をした時、受話器の向こうから苦笑いまじりの声が聞こえた。テーマは、岸田文雄首相の夏休み。当初から15日から21日までの予定は決まっていたし、総理大臣でも休みを取ることは普通のことなのだが、一国を率いる立場ともなると、その「取り方」にも、さまざまな評価がついてしまう。

岸田首相が夏休みに入ってからというもの、というより取る前から、旧統一教会と自民党議員との「ズブズブ」ともいわれる関係の深さがどんどん明らかになっている上、新型コロナ感染者数も全国で連日最多を更新、国会では閉会中審査も行われた。また昨年の東京五輪・パラリンピックのスポンサー選定などをめぐる汚職事件は、大会組織委員会元理事らの逮捕に発展した。

元理事らの案件をめぐっては今月上旬に、「お盆明けが、事態が動くXデーではないか」との情報が、永田町や霞が関をかけめぐった。岸田首相は今月、当初9月上旬とみられた内閣改造と自民党役員人事を電光石火で前倒ししたが、五輪をめぐるこの問題が、人事前倒しの判断に影響した可能性を指摘する声も一部で出ていると耳にした。

首相は、夏休みに入る前に人事を終え、旧統一教会の問題については、8月10日の会見で「政治家としての責任においてそれぞれ当該団体との関係を点検し、その結果を踏まえて厳正に見直すことを厳命し、それを了解した者のみを(閣僚に)任命した」と述べたが、各議員に判断を丸投げするような言いぶりだった。コロナについては、すべての感染者を確認する「全数把握」の見直しを検討する考えを示し、関係閣僚にも指示を出した。でも、それはあくまで「とりあえず」で、事態が動くような指示ではない。お休みの期間に、コロナ感染拡大は一層深刻となってしまった。

今回の首相の夏休み。「東京を離れて、本格的にがっつり休む」パターンだったが、コロナ禍では初めてだ。首相動静によると、首相は8月15日の全国戦没者追悼式後から休みに入り、16日は千葉県で裕子夫人ら親族とゴルフをし、17日からは静岡県伊豆の国市の温泉旅館で家族水入らずの2泊3日のを過ごし、19日に帰京した。

最近の首相では、安倍晋三元首相が第2次政権で毎年、山梨県鳴沢村の別荘でゴルフやバーベキューをしたり、地元に帰省して墓参りをすることが「定番」で、2週間近く休みを取ったこともあったが、コロナ禍の2020年は移動規制もあり、短期間の休みにとどまった。前任の菅義偉前首相は、コロナ対応で休みも取らずにぶっとおしで公務を続け、夏休みと呼べるような時間も取れなかった。そう考えると、コロナ禍で初めてまともな夏休みを取ったのが岸田首相ということになる。

しかも、静養先ではNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」ゆかりの場所を観光に訪れて回ったという。首相は「鎌倉殿」を毎週欠かさず見ているとも報じられた。

「鎌倉殿の13人」といえば、鎌倉幕府誕生の過程やその後の流れで、権力者や御家人、さまざまな立場で展開される、時に血みどろの権力闘争が大きな見どころだ。一方、権力者や仕える人間の判断とは、という観点からも、政治家の間でファンが多いと聞く。

岸田首相は、首相就任後、時に「政治の玄人」をうならせるような政局や人事のセンスをみせてきたとの評があるが、ドラマとはいえ、権謀術数がうごめいた乱世に思いをはせる機会を、毎週持っていることが明らかになった。「自分を権力者の側におくか、以前、閣僚や党幹部として安倍元首相に仕えた立場におくかで、見方も変わる。岸田さんは、どんなことを考えて見ているのかな…」(政界関係者)。

首相は明日8月22日から、公務に復帰する。参院選を勝利し「1強」の様相を見せ始めた矢先に、旧統一教会問題が足かせとなり、内閣支持率も上がらない。今後は、実施をめぐって国民の間で賛否両論となっている安倍元首相の国葬問題でも、「なぜやるのか」納得できる説明が求められることになる。

夏休み明けに、どっさり残った宿題にどう手を付けるのか。ちょっと時間があいてしまった分、「後手後手」批判がさっそく出てきそうな雲行きになりそうな気もする。【中山知子】