スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさん(17)は19年8月に国連の気候変動会議への出席のため、大西洋を横断して英国から米ニューヨークへと渡った。手段は二酸化炭素排出量の多い飛行機ではなく、小型のヨット。15日間におよぶ約4800キロの旅だった。

世間ではグレタさんのことを発達障害を抱えた、おかしな子だという人が多いが僕はそうは思わない。環境負荷が大きい温室効果ガスは飛行機が最も多い。電車や車と比べ、4~5倍の温室効果ガスを排出するという。環境問題は我々Jリーガーにとっても欠かせない大きな問題の1つ。耳を傾け、その出来事に目を向け始めると自分がいかに浅はかで無知だったかということに気がつく。

僕らサッカー選手は移動に飛行機を使う。もちろんいきなりグレタさんのようにヨットで移動するわけにはいかない。そういう意味でいうと私の所属するYS横浜は飛行機の割合より電車を使うことの方が多い。それは予算の問題ではあるが、少し視点を変えれば、環境に優しいチームでもある。

前回のコラムでも書いたが、クラブから排出するゴミもそれなりに多い。ペットボトルのゴミの数は毎日消費するので、かなりの量だと思う。この点においても、うちはマイボトルで水を自分たちで用意しているので、少しは環境に貢献しているかもしれない。最近、こんな風に自分たちの日常にフォーカスを当て、改めて環境問題に対して、自分たちの行動が環境にどんな影響を与えているのかを考え始めている。これはあくまでも僕の私見でしかないが、少し聞いてもらいたい。

今ある資源は有限であり、その資源によって僕らはサッカーをすることができている。もっと大きく言えば、この地球上で生きていけるのは資源があるからだ。しかし、この限りある資源を無駄に使い、文明の発達と同時に、私利私欲の先にある効率化によって壊れ始めた地球環境がそこにはある。

そこで、本気で地球環境を考える「エコクラブ」が誕生したらどうなるだろうか。ごみ拾いをしたり、掃除をしたりというテクニカルなことではなく、実際に遠征の際に飛行機を使わず、バスや電車で移動をする。ペットボトルやテーピングにも工夫をし、環境に良いものを作っていく。

イングランドの2部リーグでは、選手がヴィーガン(完全菜食主義者)になり、スタジアムグルメもすべてヴィーガンのクラブが存在する。こういう取り組みをすることで、自分たち自身が環境のことを考えられる。サッカー選手としても、人としても、子どもたちに夢を与えることができるのではないだろうか。

地球環境のことを最優先にし、サッカークラブとしてそれをクラブアイデンティティーにする。スポンサーはすべてクラブアイデンティティーに賛同する企業で、サポーターにも地球環境を良くする取り組みに日常から取り組んでもらう。そんなクラブは100年、200年先でも生き残ることができるのではないか。地域に欠かせないクラブになると同時に、地球にも欠かせないクラブになるだろう。

今だけ良ければいい。自分たちさえサッカーができればいいということではなく、未来のサッカー界に今以上に良い環境を残すことも我々選手の責務だと考えるようになった。その際に大事になってくるのは選手の理解だと思う。サッカー選手にとって疲労は大きなパフォーマンス低下の原因になるが、地球という大きな規模で考えた時にそのパフォーマンス低下は果たしてどれだけ大きな意味をなすのだろうか。全ての移動をバスや電車にすることで僕らはCO2の排出を防ぐことができ、未来につなぐバトンに少しでも意味を持たすことができるのではないかと思う。

僕らが破壊してしまっている地球の犠牲を、少しでも僕ら自身が今、痛みを受けるのか。それともズルズルと未来へと先延ばしにし、孫やひ孫の代に痛みを背負わせるのか。いま一度、僕らが考えなければいけない分岐点にきていると思っている。

よくチームが負けたときなど、これはみんなの責任だというが、それは誰の責任でもないと言っているのと同じことだ。チームワークという言葉の響きにごまかされると、変えなければいけない本質はずっと眠り続けたままになる。お金が人生の優先順位の最高位をしめる社会ではなく、情熱を注げるこの社会を持続可能なものにする取り組みをしていきたい。ピッチ内の結果も大事だが、それ以上に目を向けなければいけない社会課題が山積みだということも事実なのだ。

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「0円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、グレミオ・マリンガとプロ契約も、けがで帰国。03年に引退も、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年に旧知のシュタルフ監督率いるYS横浜に移籍。開幕戦のガイナーレ鳥取戦で途中出場し、ジーコの持っていたJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を上回る41歳1カ月9日でデビュー。175センチ、74キロ。

0円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦
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