モスバーガーでグリーンバーガーという動物性食材を使わないメニューがスタートし、先日はドトールコーヒーで動物性食材を使わない大豆ミートバーガーが誕生した。

僕はヴィーガン(完全菜食主義者)になって216日が経過した。以前もこのコラムで少し触れたが、この食事改善はサッカー選手としてのパフォーマンスアップが目的だった。その目的は今のところ見事に達成されている。特に大きな変化としては持久力、心肺機能の向上だ。

先日も練習試合があったが、90分間最後まで走り切れたのは確実に食事改善のおかげであり、それはまさにヴィーガンという手法を用いたことにほかならない。そして、そのヴィーガンはパフォーマンスアップ以外にも大きな影響を与えてくれている。

今、世の中で注目されるキーワードのひとつにSDGs(持続可能な開発目標)が挙げられる。15年9月の国連サミットで採択されたもので、17の開発目標を掲げて世界的に活動が行われている。もちろん僕が所属しているYS横浜もこの取り組みをクラブとして掲げ、そこに付随するアプローチを試みていこうとしている。

僕もこのSDGsの取り組みには大きな関心を寄せていた。2001年に策定されたMDGs(ミレニアム開発目標)のときから関わりがあったからだ。SDGsは2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すもの。17のゴール、169のターゲットから構成され、地球上の「誰1人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。

パフォーマンスアップのための食事改善が、世界を変えるための1歩になっている。これは僕の意識を大きく前進させることにつながった。ヴィーガンは、動物、水節約、飢餓を防ぐ、森林を守る、野生動物、健康、平和、地球環境といったさまざまなところで意味を見いだしている。

今年で選手としてはラストイヤーになるが、人としてはここからが見せどころだと思っている。サッカー選手はサッカー選手としてピークアウトすると、なぜか多くの選手が人としてもピークアウトをしてしまう。それは、Jリーガーという肩書を失うだけでなく、お金や地位や発信力も同時に失うからだ。本来であれば、選手として終わるタイミングで人としての成熟が求められるはず。しかし、今はそうなっていないのが現実だ。

それはサッカーしかしてきてないから。引退後のセカンドキャリア選択では、ほとんどの選手が働く場所に困ってしまう。何とかして再就職先を探すことに精いっぱいになり、その決め手は給料となる。その瞬間に、その人の魅力はほぼゼロになると思っている。

僕はJリーガーとしてのラストイヤーを終えてからが真骨頂だと思っている。偶発的に起こったヴィーガンとしての変化が、僕のキャリアをひとつ前に進ませてくれている。次のキャリアは職種や仕事という観点ではなく、生きざまという視点がもたらす世界観で表現する必要がある。

環境問題はまさに僕の生きざまの中に密接にシンクロしている。僕らは自由に好きなことをしていく権利があると同時に、持続可能な社会を構築させていく義務や責任もある。

お金を捨てたいと思った3年前。無駄遣いをし、環境のことなど一切考えずに、資本主義経済のど真ん中で戦っているつもりでいた。でも、実はそれはもう古い。サッカー選手の多くが良い給料でいい車を買おうとするが、そんな選手がサッカー選手のピークアウトと同時に人としてもピークアウトしてしまう。お金で何でも買える世の中はそのうち終わる。今、僕らはこの地球の資源という貯金を、効率化という進化の代償で使い果たしてしまった可能性がある。

食事改善をきっかけに出会えた地球との関係性。まだ気がついていないかも知れないが、環境破壊はすぐそこにあり、気候変動がもたらす驚異はすでに起きている。日本でも起きている道路の陥没などは、過去の統計では計算のできないことだ。

自分ができる範囲でいい。少しだけ地球に目を向けて、自分の子どもたちの30年後を想像して、責任ある地球環境を残したいと思う。生きたいように生きられる社会を持続可能なものにして、次世代にバトンを渡したい。(J3、YSCC横浜FW)

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「0円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

0円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦(左)
0円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦(左)