気がつけばコロナというウィルスが出回り始めて、1年以上が経過しました。この頃は欧州フットボールリーグが大詰めを迎え、タイトルレースではラストスパートが、残留争いでは最後の踏ん張りがということで盛り上がる季節です。現状は未だ無観客での試合開催が続いており、各クラブの財政が逼迫しているという状態の中で、掲げられたスーパーリーグ構想。今回はその背景と展望について経済的な視点からのぞいてみたいと思います。


まず、無観客でどのぐらいの損失が出ているかという部分を見てみると、スペインリーグのトップ3のクラブはいずれも180億円~230億円前後のチケット収入を失ったと現地で報道されています。実際、直近で発表されている各クラブのファイナンシャルレポートを見てもおおよそそのぐらいの数字が前年シーズンと比べてマイナスという状況です。

売上規模で行くと、レアル・マドリード、バルセロナが約1000億円前後で、アトレティコ・マドリードは少し少なく600億円前後。これに対してコスト面ではほぼ同額であることから、各クラブの利益は1億円~2億円あるかないかとなりそうです。この状況である日突然200億円前後の収入を失っているということになりますから、当然直近のファイナンシャルレポートでは失った分がそのままマイナスになっております。同時に試合が行われないことからグッズの売上やフード&ビバレッジの売上も含めて、多くの周辺ビジネスにマイナスが生じており、その金額を合わせると300億円ぐらいのマイナスになっていることが読み取れます。

今回のスーパーリーグ構想は、この状況に我慢しきれなくなったということもありますが、現地からの情報で1つ気になるのは、多くのクラブが国際サッカー連盟(FIFA)、欧州サッカー連盟(UEFA)に対してストレスが溜まっているということです。事の発端は2015年に表面化したFIFA、UEFAでの前代未聞のマネーロンダリング事件。ブラッター前会長やミシェル・プラティニといった上層部が逮捕された一連の事件ですがこの話は水面下で多くの関係者に知れ渡っていた話です。UEFAやFIFAが主催する大会で多額の手数料を保持している(これはこれで当然の動きになるのですが)にもかかわらず、クラブへのサポートがなく、更にそれを自分たちのポケットにまわしていたとなれば当然の如く皆が怒ります。直近のUEFAのファイナンシャルレポートによるとUEFAが欧州チャンピオンズリーグ(CL)/ヨーロッパリーグ(EL)およびスーパーカップであげた収入は約32.1億ユーロ(約4173億円)とありました。そのうちの約84.4%にあたる27.1億ユーロ(約3523億円)が放映権料で、収益の大部分が放映権収入であることがわかります。全体の収入約32.1億ユーロから経費を差し引いた収益は、約27.2億ユーロ(約3536億円)と出ており、そのうち約93.5%にあたる約25.4億ユーロ(約3302億円)が出場クラブに分配されています。しかし実際のところ勝ち上がらないと大きなお金が入ってこないという感覚にもなっているかと思います。


そして人の関係性に疑わしいものが未だ存在していることも、嫌気が差している一つの要因のような気がします。CLの放映権を握っているのはBeIN Sportsというカタールの会社です。この企業の会長がナースル・アル・ハライフィ氏で、パリサンジェルマン(PSG)会長兼CEOです。カタール出身のビジネスマンで、カタールスポーツ投資庁のトップでもあります。更にこの方はFIFAクラブワールドカップ組織委員会やUEFA執行委員会だけでなく欧州クラブ協会の理事も務めており、主要なポジションを押さえています。自分たちで作り出している放映権利をUEFAというところと取引しながら、最終的には法人とはいえナースル・アル・ハライフィ氏そのものに渡っているとなれば、感情的にはどうなのでしょうか。

実際に起訴された元FIFA事務局長のジェローム・ヴァルケ氏が行った汚職にナースル・アル・ハライフィ氏が関与したという報道もありました。アル・ハライフィ氏は『BeIN Sports』の会長としてヴァルケ氏にサルティーニャの別荘使用権を渡し、その見返りにヴァルケ氏が事務総長という立場を利用してメディアパートナーの割当に権限を発揮し、W杯やコンフェデレーションズカップの放映権に関わる取引で多くの利益を受け取っていたと報道されています。


先日マンチェスターシティのグアルディオラ監督は、記者会見という公式の場で声を大きくして訴えていたことが1つあります。バイエルン・ミュンヘンではエースのレバンドフスキがポーランド代表に選出され、3月28日に行なわれたW杯欧州予選第2節のアンドラ戦に出場も63分に負傷により途中交代。結果、右膝靱帯損傷のため全治4週間と診断されました。この影響でCLの準々決勝、4月6日、4月13日に開催されたPSG戦は出場することができず敗退という結果になりました。失ったのは準決勝進出で手に入る予定だった約1200万ユーロ、決勝進出で手に入る1500万ユーロ(優勝するとさらに400万ユーロ)といった大金だけでなく、マーケットプール、UEFA給と呼ばれる指数(CL出場クラブが過去10シーズンでの成績を係数化したもの)による分配金。これらの損失に対して何も補填されることはなく、所属元のチームが一番選手に対してお金を払っており、更に財政状況も綱渡りという状況に関わらず、何もサポートも受けることができず一番の被害を被っているのではないかと。

レバンドフスキ以外にも同じようなケースは存在しており、こうした数々の問題が長年の課題でもありましたが、具体的な対応策が提示されることなくほったらかしにされていたように感じます。


ビッグクラブからすれば、一方的な被害を被って更に何もサポートされなく、売上減少に対しても責任を追うのはすべてクラブの経営陣のみという部分からしても、割に合わないと感じるのではないでしょうか。このようなことが積み重なってのアクションであることを考えると、単なるお金に目がくらんだがゆえの行動とも言えない部分がありそうです。


今後の展開はどうなるか全く予想が付きませんが、お互いの利権を守りつつ納得できるところに落ち着いてほしいものです。とにかく我々はあの熱狂が欲しい、これに尽きるわけなのですが。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)