ノルウェー対イングランド戦を裁いたのは、フランス人のクレマン・トゥルパン主審(44)だった。

以前から評判だったが、アーセナル所属のベルギー代表FWトロサールとよく似ている。顔立ちもそうだが、スッキリ刈り上げた短めのヘアスタイルが余計にそっくりさんの度合いを強めている。

ノルウェ-の主将ウーデゴールがトゥルパン主審に歩み寄り何か話し合う場面は、まさしくアーセナルでのよく見る光景だ。このウーデゴールだけでなく、イングランドにはライス、サカ、マドゥエケ、エゼの4人もいる。彼らがトゥルパン主審と近くに立つたびに「アーセナルか」とツッコミを入れたくなった。

欧州CLやW杯の欧州予選など大きな試合で主審を務めてきた世界トップレベルの実力者。この日も難しい判定が多かったが、沈着冷静なジャッジは光っていた。試合が荒れずに終わったのはトゥルパン主審の立ち回りのうまさだろう。

選手に敬意を払いながらコミュニケーションを取り、選手側の言い分にしっかり耳を傾けていた。ベリンガムはトゥルパン主審のジャッジについて「敬意を持ってコミュニケーションを取ることを認めてくれた。おかげで素晴らしい試合になった」と話した。

話を聞くという姿勢が大事なのだ。審判と言えば、サッカーでなく野球の話だが「俺がルールブックだ」と突っぱねた人物がいた。伝説的なエピソードとして残されている。強い正義感と自身の判断への強い自信のあらわれだろう。

ただ、社会全体の価値観がより変わる中、今の時代に当てはまるようには思えない。アメリカの臨床心理学者カール・ロジャーズ(1902~1987年)が提唱したのは「傾聴」だった。自身の価値観やフィルターで物事を見ない。つまり意見に耳を傾け、相互理解を深めるというコミュニケーション術である。

ノルウェー対イングランド戦はボールがワイヤに触れたと見える流れから同点ゴールが生まれたり、VARでゴールが取り消されたり、と不利益を被った側からすれば文句を言いたいところ。トゥルパン主審は両チームの選手と適度にコミュニケーションを図り、試合が荒れないよう、うまくガス抜きしながらコントロールしていた。

まるで両チームの選手たちと「仲間」であるかのように。冒頭で記したように「アーセナルか」とツッコミを入れたくなるのも、近くに寄り、意図的にコミュニケーションを取っていたからこそ。W杯は選手だけでなく、世界一流のレフェリーたちの技術も際立っている。【佐藤隆志】

ノルウェー対イングランド戦 イングランドにペナルティキックを宣告もVARによる確認の結果、判定を覆したクレマン・トゥルパン主審(ロイター)
ノルウェー対イングランド戦 イングランドにペナルティキックを宣告もVARによる確認の結果、判定を覆したクレマン・トゥルパン主審(ロイター)
ノルウェー対イングランド戦 ノルウェーが先制ゴールを決めた後、イングランドのハリー・ケインの抗議を受けるクレマン・トゥルパン主審(ロイター)
ノルウェー対イングランド戦 ノルウェーが先制ゴールを決めた後、イングランドのハリー・ケインの抗議を受けるクレマン・トゥルパン主審(ロイター)
ノルウェー対イングランド戦 ノルウェー選手の抗議受けるクレマン・トゥルパン主審(ロイター)
ノルウェー対イングランド戦 ノルウェー選手の抗議受けるクレマン・トゥルパン主審(ロイター)
ノルウェー対イングランド戦 ノルウェーのクリストファー・エイヤーにイエローカードを提示するクレマン・トゥルパン主審(ロイター)
ノルウェー対イングランド戦 ノルウェーのクリストファー・エイヤーにイエローカードを提示するクレマン・トゥルパン主審(ロイター)