現役時代は、茶髪でロン毛で耳にはピアス。あくまで外見は“チャラい”イメージの選手だった。愛称「アツ」こと三浦淳寛が、26日にヴィッセル神戸で監督デビューを飾った。EXILE風のジャケットとパンツ姿は、46歳になった今も決まっていた。4-0で勝ったのだから、よけいにかっこいい。

監督に就任する24日までは、取締役兼スポーツダイレクター(SD)としてクラブの経営と強化を担っていた。前任監督が家族の問題で突然辞めたからといって、指導者完全未経験のアツが、イニエスタらを率いるとは無謀と思えた。

本人は言わないだろうが、神戸というクラブに強い恩義があった。選手時代に主将を務めたとはいえ、在籍は2年半だけ。その自分を幹部として呼び戻してくれ、昨年は特別の配慮を受けた。

「声は出ないけど、かろうじて呼吸して、目の動きで僕を感じていた。自分も強くて優しい、あんなオヤジになりたい。最期に立ち会えてよかった」

アツは昨年4月、大分の実家で77歳、父伸邦さんの最期をみとっていた。最期の2日間、父親と過ごせた感謝の思いは、神戸というクラブに向く。

当時のチームは、最終的に公式戦9連敗を喫した真っただ中にいた。闘病中だった父親の容体が悪化したアツは立場上、神戸にとどまる決意をした。だが、三木谷会長の指示で故郷へと戻った。

25日の監督就任会見で出た「やると決めた限りは、神戸のために全力を尽くす」という言葉は、本心。緊急事態の古巣を、今度はアツが助ける番だ。

Jリーグで最初に所属した横浜フリューゲルスが消滅する際、24歳だったアツは横浜市内の駅に立ち、チーム存続の署名活動を行った。最後の天皇杯で優勝を勝ち取った時は号泣した。FKの名手としてJリーグや日本代表で活躍した実力、そのルックスの奥には、純粋で優しい性格がある。非情な決断を迫られ、監督としてできるのかと思うほどだ。

アツのひそかな夢は9歳の1人娘、由楽(ゆら)さんを将来、女子プロゴルファーにすること。父親のことを「あっちゃん」と呼ぶ娘と夫人が、数少ない癒やしだ。座右の銘は「自信と過信は紙一重」。J1で過去最高7位の壁が破れない神戸は、今季も中位に停滞する。熱い男こと「アツ」が、その歴史を変えるかもしれない。(敬称略)【横田和幸】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆横田和幸(よこた・かずゆき)1968年(昭43)2月24日、大阪府生まれ。91年日刊スポーツ入社。96年アトランタ五輪、98年サッカーW杯フランス大会など取材。広島、G大阪などJリーグを中心にスポーツ全般を担当。

9月26日、札幌戦の後半に交代したFW古橋(右)と抱き合う神戸三浦監督
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