「直近のリーグ戦17試合1勝4分け12敗、16戦連続未勝利、5連敗」

これが現在、最下位に沈むエイバルの状況である。リーグ戦最後の勝ち星は、今年最初に行われたホームでのグラナダ戦(2-0)。それ以降、歯車が狂い始め、極度の不振に陥っている。

MF乾貴士、FW武藤嘉紀が所属するエイバルは、今季ここまでのリーグ戦成績は33試合4勝11分け18敗の勝ち点23で最下位。残留圏内の17位バリャドリードとの勝ち点差は7にまで開いており、リーグ戦も残り5節に迫る中、7季連続の1部残留の可能性は風前のともしびとなっている。またエイバルは降格した場合、2014-15シーズンのクラブ史上初の1部昇格以降、7季目にしての2部降格となる。

残る対戦相手はアラベス、ヘタフェ、ベティス、バレンシア、そしてバルセロナ。アラベス、ヘタフェ、バレンシアは残留争い、ベティスは欧州リーグ出場権争い、バルセロナは優勝争いと、全てのチームが何かをかけてプレーしているため全く簡単ではないことが予想される。

エイバルが今季、こんなにも厳しい状況に陥った原因は何なのか?

その原因として、特に現地で挙げられているのは、11年からクラブのスポーツディレクターを務め、チームが3部から1部まで昇格するのに大きな貢献を果たしてきたフラン・ガラガルサの補強プランが近年うまくいっていないこと。その結果、チームが苦境に立たされていることが非難されている。

実際、ここ2年間で加入した15選手のうち、メンディリバル監督の下で満足に機能しているのは、昨季、クラブ史上の移籍金最高額400万ユーロ(約5億2000万円)でデポルティボから入団したチームの10番を背負うエドゥ・エスポシト、今季セビリアからの期限付き移籍で加入し、今年3月にスペイン代表デビューを最近飾ったばかりのブライアン・ヒルのみであるとのこと。

スペイン紙マルカは「ブルゴス、ロベル・コレア、オラべ、キケ・ゴンサレス、乾、クリストフォロ、ソアレス、コンジョル、レシオ、ケビン・ロドリゲス、武藤、ポソ、アレイシュ・ガルシアは期待通りのパフォーマンスを発揮していない(※すでに退団、期限付き移籍している選手含む)」と物足りなさを指摘している。

今季の補強に関しては、セルヒオ・アルバレス、キケ・ゴンサレス、セルジ・エンリクのような高給取りのベテラン選手たちが障害となった。クラブは今季開幕前、適切な補強を行うためサラリーキャップ(移籍金の原価償却費や選手年俸などの限度額)に空きを作る必要があり、これらの選手たちを売却しなければならなかったという。しかし給料に見合った働きをしておらず、ここ数年間で明らかに評価が下がっているため買い手がつかず、今季はほとんどの選手を期限付き移籍で獲得することになったのである。

また、チームのナンバーワン選手だったオレジャナを残留させられなかったことも大きく響いている。契約延長交渉の際、100万ユーロ(約1億3000万円)の給料値上げを渋ったことにより、残留争いの直接のライバルであるバリャドリードに移籍金ゼロで手放すことになった。オレジャナは今季、バリャドリードでここまで、リーグ戦29試合に出場して6得点2アシストを記録し、得点数、シュート数でチームトップと、完全に攻撃の中心となっている。

さらにエイバルはその直後、オレジャナが値上げを要求した金額の倍の200万ユーロ(約2億6000万円)を費やし、ディナモ・ザグレブからコンジョルを獲得したが、メンディリバルの戦力にほぼ入ることはなかった。リーグ戦の先発出場はわずか2試合のみで、今季後半戦、トルコに期限付き移籍で出しており、全ての面で失敗に終わっている。

補強面以外でエイバルの抱える大きな問題点といえば、ここ5試合でわずか1得点という数字を見ても分かる通り、得点力不足であることは間違いない。チームの総得点23。というのは、1部リーグで2番目に少ないヘタフェと比べて3点の開きがある。

今季、得点面で機能しているのはリーグ戦で9得点を決めている攻撃の大黒柱キケ・ガルシアのみ。これにMFブライアン・ヒルとDFブルゴスが3得点で続いている。FW陣に関してはセルジ・エンリクが2得点、武藤が1得点、キケ・ゴンサレスに至っては無得点。また乾はこれまでに1ゴールを決めている。

しかしシュート数はバルセロナ、レアル・マドリード、セビリア、アトレチコ・マドリードに次ぎエイバルは1部リーグで5番目に多い。チャンスが作れていないわけではない。シュートの精度が問題となっているのだ。

また長丁場のリーグ戦を戦う上で、キャリアの最終段階に入っているベテラン選手の数が多いことも、後半戦に入り息切れしている原因の可能性がある。エイバルは1部リーグで2番目に平均年齢の高いチームとなっている。

トップチーム23選手中15選手が29歳以上で、25歳以下の選手たちの大半は期限付き移籍で所属し、今季終了後におのおののチームに戻ることになる。25歳以下の選手でエイバルが所有するのはエドゥ・エスポシトのみで、クラブの将来は非常に暗いと言えるだろう。

さらにホームサポーター不在も、勢いに乗れずに結果を出せていない原因のひとつになっている。エイバルはわずか8000人収容という小さいスタジアムの中、1部リーグの中でも特にサポーターの熱狂的な後押しを受けて結果をものにしてきたチームである。

しかし昨季の3月以降、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で無観客開催が続いていることが大きく影響し、今季のホームゲーム成績は16試合1勝6分け9敗の勝ち点9と、唯一勝ち点が2桁に届いていないチームになっている。2番目にホームゲームの成績が悪いウエスカとバリャドリードは3勝を挙げ、勝ち点15を獲得している。

一方、新型コロナウイルスの影響によるタイトな日程で、ほぼ全てのクラブを苦しめているケガの問題はエイバルにはそこまで当てはまらない。エイバルはケガ人が少ないチームのひとつであり、長期離脱を余儀なくされたのはビガス、ロベル・コレア、ホセ・アンヘルのみ。また最近では武藤が6試合連続、エドゥ・エスポシトが5試合連続で欠場していた一方、乾はここまで負傷欠場が一度もない。

このようにエイバルは今季開幕前からさまざまな問題を抱えており、リーグ戦も残り5節と迫る中、7季連続の残留が非常に厳しい状況になっている。しかしスペインの非常事態宣言の解ける5月9日の週末以降の残り4節、有観客開催プランが浮上していることは、苦しいシーズンを送るエイバルにとって、大きな光になるかもしれない。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)