サッカー・ワールドカップ(W杯)北中米3カ国大会の共催国メキシコでは、麻薬組織の関与が疑われる行方不明事案が絶えない。不明者の家族は、捜査当局が捜索を尽くしていないと訴え「私たちは忘れられている」と政府に怒りを向ける。開催都市の中西部グアダラハラでは、市民の体感治安が悪化。W杯で「問題を隠蔽しようとしている」との不満が漏れる。

「私たちは闘い続ける」。6月18日、グアダラハラ。行方不明の家族を持つ約160人がデモ行進で声を張り上げ、政府に捜索徹底を求めた。参加者が掲げたW杯トロフィーを模した高さ1メートル弱のオブジェは、不明者の顔写真で覆われていた。

先頭に立つエクトル・フロレスさん(45)の手には、2021年に自宅から連れ去られた長男の通称ダニーさん=当時(19)=の写真。同年に設立した家族らの団体は、今回のデモも主導した。広く関心を持ってもらおうと、W杯選手の写真入りシールを模した不明者の顔写真付きTシャツやポスターも作った。

政府統計では、麻薬組織に連れ去られたり、殺害されたりした疑いがある不明者は約13万5千人に上る。治安専門家は、組織の活動に従事させるために拉致するケースがあると指摘。家族らは、組織との癒着に由来する捜査当局側の不作為も背景にあると主張する。

ダニーさんの有力な手がかりはなく、フロレスさんはW杯に多大な予算を割くのなら、政府は不明事案の解決にも「もっと多くの資金を割り当てるべきだ」と訴える。

市民は治安への懸念を深めている。軍は2月、グアダラハラがあるハリスコ州で、国内最大級の麻薬組織の首領だった男の拘束作戦を実行。組織側は男の死を受け、各地の道路を封鎖するなど報復に出た。4月発表の政府機関による調査結果では、市民の約90%が治安が不安だと回答。昨年12月の前回調査から11ポイント上昇した。

会社員アナ・ヒメネスさん(36)は数年前から夜間の外出を控えていると明かす。W杯の自国開催は「夢だった」が、問題が山積する中での実施に疑問を感じるという。古代ローマで民衆の不満をそらすために食糧と娯楽で懐柔した政策を引き合いに「パンとサーカスのようだ」と語気を強めた。(共同)