セネガルの屈強な猛者たちと、日本は真っ向から打ち合い、勝ち点1をもぎ取った。その勇猛な戦いを見ながら、私は20年前に聞いた日本サッカー協会の岡野俊一郎会長(当時)の話を思い出した。初出場した98年W杯フランス大会の1カ月後、彼は外国特派員協会で日本の敗因についてこう語った。

 「サッカーは本来狩猟民族のスポーツ。農耕民族の日本人は欧米人と比べて骨格と筋肉量で20%劣る。それが弱い理由」。そう断言した。さらに争い事を避けて和を大切にしてきた農耕民族が、狩猟民族にボールを奪い合って勝つのは至難の業とも。海外サッカーのテレビ解説を長年務めた理論派の分析だけに説得力があった。

 日本が3連敗したフランス大会を取材して、世界との巨大な溝を感じた直後だったので、私はこの話に妙に納得した。戦い終えた岡田武史監督も「欧米の勝負への執着と比べるとまだ劣るところがあるように思う。選手がプロとして成熟すれば変わるかもしれないが、10年単位の時間がかかる。しばらくは戦術でごまかすサッカーをするしかない」と本音をもらしていた。

 あれから20年。日本は狩猟民族をルーツに持つ猛者たちと、恐れもせずに打ち合った。不断のラッシュに最後はセネガルの方がひるんでいた。FW大迫は195センチを超える大男との競り合いにも負けていなかった。引き分けたが、日本は間違いなく強者だった。その戦いぶりは、私の心の片隅にずっとあった民族ルーツ論に終止符を打った。

 今大会の彼らの戦いぶりを見ていると、武士道精神が心の根底にある日本人は、むしろサッカーに向いているのではと感じる。日々厳しい鍛錬を積み、自己犠牲をいとわず、大きな相手にもひるまず立ち向かう精神力。武道では「柔よく剛を制す」「小よく大を制す」の言葉がよく使われる。それが今大会の日本代表の戦いぶりに重なるのだ。

 昨年2月に鬼籍に入られた岡野俊一郎さんも、きっと天国から日本の試合を見ているに違いない。今、あらためて感想を聞くことができないのが、少し残念である。【首藤正徳】