巻き返しへ、決意を新たにした。フィギュアスケート男子の19年ジュニアグランプリ(GP)ファイナル王者、佐藤駿(18)が埼玉栄高から明大政治経済学部に進学し、7日、東京・日本武道館で行われた入学式に出席した。

羽生結弦(27=ANA)と同じ仙台市の出身。5歳の時、後に冬季オリンピック(五輪)を2連覇する希代のスケーターからペンダントをもらったこともある佐藤は、全日本ノービス選手権4連覇やジュニアの世界記録樹立など順調に成長してきた。

シニア2年目の昨年11月にはGPシリーズ第5戦フランス杯(グルノーブル)で4回転ルッツと4回転フリップを降りた。同12月の全日本選手権(さいたま)でも、ともにGOE(出来栄え点)プラスの評価を得た。この高難度ジャンプ2本を公式戦でそろえた日本唯一の存在だ。

しかし、目指していた先月の北京五輪は逃した。昨年のGPシリーズ初戦スケートアメリカと全日本で相次いで左肩を脱臼。氷に乗ることすら難しい時期を多く過ごすことになった。

代表の最終選考会を兼ねた全日本で再発した時点で可能性は消えた。腕が上がらない状態で演技を全うしたものの7位に沈んだ。夢の切符はつかめなかった。

一方、幼少時から高め合ってきたライバルで、同い年の親友でもある鍵山優真(18=オリエンタルバイオ)が北京の地で抜群の成績を残した。初出場を果たしただけでなく、団体戦で暫定の銅メダルを、個人戦で銀メダルを獲得した。

その瞬間、佐藤は手術台にいた。

簡単に脱臼を繰り返す左肩を治すには、メスを入れるしかなかった。その執刀を受けた日が2月10日、男子フリー当日、日本時間の午後だった。

「全身麻酔だったんですけど『今からフリーが始まるね』って話をしていたらスッと意識が。終わって、目覚めた時には結果が出ていました。優真、すげえなと。羽生選手も大舞台で4回転半に挑戦していて」

鍵山の飛躍、羽生のクワッドアクセル世界初認定、宇野昌磨(24=トヨタ自動車)の大会2つ目となる銅メダル。「日本勢、すごいな」。麻酔が切れて激痛に襲われる前に、率直に思った。

大学4年時に迎える26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪へ、入院していた都内の病院から新たな挑戦が始まった格好だ。

手術は成功。1カ月ほど固定して三角巾でつり「最初は服が着られない、寝返りが打てない」状態だったが、現在は「転ばなければいいと言われているので、氷の上を滑ることはできています」とリハビリを再開している。

ただ、従来の負荷に戻すまで3カ月、武器の4回転ジャンプに再挑戦するまで4カ月と言われている。先月から今月に延期された世界ジュニア選手権(13~17日、エストニア)の代表にも選ばれていたが、手術に踏み切った。

「迷ったんですけど、世界ジュニアを待っていたら新シーズンに間に合わないので」

辞退。コロナ禍の中、貴重な実戦だったが、後悔はない。痛みも癒え「まだ固まってますけど」と言いながらも、患部は日に日に快復している。何より、決断を早めたことで6月にも本格復帰できる見通しだ。

7月1日からの22-23年シーズンへ「時間はかかると思うけど、ジャンプをどこまで戻せるか。まずは、けがなく1年間を終える」ところから再出発する。

大学進学が重なったことも、心機一転、意味のあるタイミングだったと思いたい。

「大学では友達をつくって仲良くなって、スケート以外にも何か見つけたい。手術後、本当に何もすることがなくて…。自分にはスケートしかなかったんだなって思ったので(笑い)」

そうは言いつつ、やはりスケート漬けの日々が待っているのだろう。変わらず埼玉アイスアリーナを拠点に技術を磨いていくことも決まっている。

かつて羽生から「駿なら5回転を跳べるよ」と言われた爆発力の復活が待たれる。近い将来、その時代が訪れるであろうジャンプへのトライについては「僕はいいです、優真に頑張ってもらいます」と笑ってかわしたが、目指すものの輪郭は色濃く見えている。

「手術後、優真に『すげえな、おめでとう』ってLINEして『ありがとう。これからも、お互い頑張ろうね』って返ってきて。次は、ミラノには優真たちと一緒に行けるように頑張りたい。そう思いました。あの舞台に立てるくらいまで実力を伸ばしていきたい」

病床から鍵山を祝福し、心から感じたことを、この先の人生、忘れることはない。大学1年春、フィギュアスケーター佐藤駿の新章が幕を開けた。【木下淳】

明大の入学式に出席したフィギュアスケートの左から住吉りをん、佐藤駿、江川マリア(撮影・木下淳)
明大の入学式に出席したフィギュアスケートの左から住吉りをん、佐藤駿、江川マリア(撮影・木下淳)