日本(世界ランク13位)が初戦で歴史的大金星を挙げた。ラストプレーでWTBカーン・ヘスケス(30=宗像サニックス)が逆転トライを挙げ、過去2度世界一の優勝候補・南アフリカ(同3位)に逆転勝ちした。

 W杯の歴史に刻まれる最後の猛攻だった。29-32の後半39分から約7分間、日本は逆転を狙って攻め続けた。

 最後の逆転劇の裏には、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC=55)から全幅の信頼を寄せられたフランカーのリーチ・マイケル主将(26=東芝)の、勇気ある決断があった。

 29-32の後半ロスタイム、反則をもらった日本がスクラムを選択すると、総立ちの観客が騒然となった。フッカー堀江が言う。「最後は会場全部が日本を応援してくれているように感じた」。FB五郎丸のキックで同点も狙えた。南アが相手なら、同点も白星に等しい。逆にトライを取りにいって、誰かが前に落球すれば試合終了。それでもリーチは攻撃を続行した。

 リーチが「相手が(シンビン=一時退場で)1人少なかったことと、勝ちにいくという気持ちから。今までやってきたことを信じてプレーした。この4年間、南アに勝つことだけを考えてきた」と言えば、五郎丸は「自分は(PGを)蹴る気がなかった。あそこは同点というよりも、歴史を変えるには必要なことなので。勝つか負けるか」。また、プロップの稲垣は「どう組めばいいか、明確になっていた。スクラムにかけよう」。会場に響く「ジャパン」の大声援を背に、戦い方は明確だった。

 スクラムを選択した裏にはもう1つ、出来事があった。試合当日の朝、リーチがジョーンズHCと交わした会話。どこまでキックで狙うかの話をした最後に、こう言われた。「最後は選手が思うようにやればいい」。絶対的な指揮官から初めて、判断を任された。

 南アフリカに重圧をかけて右に展開。あと1歩で阻まれると、磨き上げた速いテンポのパス回しで反対へ大きく振り、後半38分から途中出場したヘスケスは、ファーストタッチで左隅へ飛び込んだ。殊勲のヘスケスは「どこにスペースがあるのか探した。どうすればボールをもらえるかも考えていた」と喜んだ。

 ジョーンズHCは「PGで3点を取って引き分けるという選択肢もあったが、引き分けを選ばずPGを蹴らない選択をしたリーチの勇気をたたえたい」。そして勝因について「攻撃を重ねていく試合がしたかった。(セットプレーなどで)切れずにプレーする時間が増えたことが、勝つチャンスを与えてくれた」。今夏の宮崎合宿では選手側から意見されたが、厳格な指揮官はそれを受け入れた。双方の壁を乗り越え芽生えたチームの一体感、そして選手の自主性が、最後の7分間に凝縮されていた。