「俳優座」復活へ 組織改革、YouTube、新しいうねりが生まれつつある

ストーリーズ

林尚之

老舗劇団「俳優座」が復活の兆しを見せている。文学座、劇団民藝とともに「新劇御三家」と言われ、数多くの有名俳優を輩出したが、平成以降は低迷の時期が長く続いた。しかし、ここ数年は意欲的な新作、翻訳劇の上演で活気を取り戻し、21年上演の5作品で紀伊国屋演劇賞団体賞を初めて受賞した。俳優座復活の背景を探る。

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俳優座は戦中の1944年に演出家の千田是也、東野英治郎、東山千栄子らによって創立された。戦後は東京・六本木に俳優座劇場と養成所を併せ持ち、シェークスピア、チェーホフの翻訳劇から創作劇まで幅広く上演した。仲代達矢、平幹二朗、加藤剛、田中邦衛、中村敦夫、原田芳雄、市原悦子、栗原小巻らを輩出し、戦後の演劇界をリードした。しかし、仲代ら看板俳優が相次いで退団し、1990年代に劇団の大黒柱だった千田が亡くなった頃から、低迷が続いた。演劇界で俳優座の公演が注目されない時期が長かった。

しかし、ここ数年で状況が変わってきた。女優業を休んで、今は経営に専念する有馬理恵代表取締役社長(49)は言う。「組織改革や眞鍋卓嗣(文芸演出部)の活躍に代表されるように座内での新しいうねりが生まれつつあると思います」。演出家の眞鍋は47歳。ここ10年で頭角を現し、2020年に高校を舞台にした俳優座公演「雉はじめて鳴く」などの演出で紀伊国屋演劇賞個人賞を受賞した。俳優座が同賞の団体賞を受賞した21年には英国の大衆紙の激しい部数競争を描く「インク」カミュ作「戒厳令」を演出したほか、外部では山田裕貴主演「海王星」の演出を手掛けた。今、最も注目されている演出家でもある。

1954年に上演された「女の平和」

1954年に上演された「女の平和」

そして、体制も変わった。以前は経営を主とした「役員会」と創造面を主とした「幹事会」の両輪だったところを、「取締役会」に1本化した。有馬社長は「2つの歯車がかみ合わない面もあったので、両方を一緒に考えることにしました」。取締役会のメンバーも40代、50代を中心となって、全体の風通しも良くなったという。

上演される演目も、ベテランから中堅、若手まで幅広く起用し、アンサンブルの良さを武器に、海外の話題作から日本の若手劇作家の新作まで多様な作品を上演している。約150人の劇団員の一体感も増してきている。

さらに今年から俳優座劇場と共同してYouTube「劇チャン」も始めた。長い歴史を持つ新劇の劇団に共通する悩みは、長年通ってくる観客の高齢化があり、より若い世代にも関心を持ってもらう狙いがある。有馬社長は「今残さないといけない劇団、劇場、演劇界の先輩の話などを多くの人に見てほしい」と劇団の代表でもある89歳の岩崎加根子に出演してもらった。

加藤剛主演「マクベス」

加藤剛主演「マクベス」

24年には創立80周年を迎える。23年、24年、25年の3年間を「80周年イヤー」として、さまざまな演目、企画を検討するとともに、より強固な体勢作りのためにクラウドフアンディングも予定している。

今年、新人を育成する劇団付属の演劇研究所所長に眞鍋が就任した。カリキュラムや講師陣も一新し、応募者は例年以上に増えて、本科・夜間を含めて入所者は30人を超えた。「同調圧力」をテーマにしたフランスの喜劇「ムッシュ・シュミットって誰だ?」を19日まで上演し、11月には80代の親が引きこもりの50代の子を世話する「8050問題」に迫る横山拓也の新作を眞鍋演出で予定している。有馬社長は「長い歴史がある分、伝統を継承しつつ新しいものを積極的に取り入れ、俳優座らしい良質の作品を作っていきたい」と80周年の先をも見据えている。     

7劇団による新劇交流プジェクト公演

俳優座をはじめとした7劇団による新劇交流プジェクト公演「美しきものの伝説」が16日から俳優座劇場で幕を開ける。長い歴史をもつ劇団がそれぞれの力を持ち寄って新たな舞台を創造することを目的とした公演で、文学座、民藝、青年座、青年劇場、文化座、東演の7劇団が参加する。ベルエポックと言われた大正時代に生きた青年たちの姿を描いた宮本研の群像劇で、演出は文学座の鵜山仁。俳優座養成所出身の渡辺美佐子(89)も松井須磨子役で出演しており、これが最後の舞台出演となるという。

この7劇団も加盟する「日本劇団協議会」には現在、52の劇団、演劇制作会社などが加盟している。もともと1956年に40劇団加盟の「劇団協議会」として結成され、61年に「新劇団協議会」と名称を変更した。92年に新劇団協議会を母体に「日本劇団協議会」が設立され、初代会長は俳優座創立者でもある千田是也が務めた。05年には86の劇団などが加盟していたが、その後は減少傾向にある。同協議会でも日本にいくつの劇団があるか分からないという。結成してもすぐ解散したりと結成・解散のサイクルが早かったり、休眠状態の劇団もあるなど、全体を把握できないのが理由。

「新劇御三家」文学座、民藝の動き

俳優座とともに「新劇御三家」と言われた文学座、民藝も新しい動きを見せている。

【文学座】 1937年に創立された最も歴史のある劇団で、戦中、戦後を通して演劇界の中心的存在だった。戦時下の45年に初演された杉村春子主演「女の一生」をはじめ、「欲望という名の電車」「華岡青洲の妻」をはじめ、別役実作「にしむくさむらい」つかこうへい作「熱海殺人事件」などを生み出した。付属演劇研究所出身者には黒柳徹子、樹木希林、小川真由美、松田優作、中村雅俊、田中裕子、内野聖陽、長谷川博己らがいる。劇団代表は今年3月に江守徹(78)が退任し、角野卓造(73)が新しく就任している。座員は約200人。ベトナム戦争、全共闘運動など激動の時代だった1968年の地方都市に住む家族の物語「田園1968」が6月17日から幕を開け、10月には杉村の代表作だった「欲望という名の電車」が文学座としては35年ぶりに山本郁子主演で上演される。

【劇団民藝】 1950年に滝沢修、宇野重吉らによって創立された。第1回公演はチェーホフ作「かもめ」で、以降、三好十郎作「炎の人」木下順二作「審判」清水邦夫作「エレジー」アンネ・フランク原作の「アンネの日記」などを上演してきた。北林谷栄、大滝秀治という名優が所属し、現在は奈良岡朋子(92)が劇団代表を務める。劇団員は約180人。NHK連続テレビ小説とは縁が深く、66年「おはなはん」で樫山文枝、67年「旅路」で日色ともゑが主演している。奈良岡とも親しい元男闘呼組の岡本健一は「グレイクリスマス」に客演するほか、7月には稽古場公演で島崎藤村原作「破壊」の演出に挑戦する。また、6月公演「ルナサに踊る」から後援会会員の寄付をもとに25歳以下の若い世代が無料で観劇できる「ルーキーシート」(メンバー登録などが必要で枚数制限がある)を始めている。