
2006年3月16日更新
開幕戦の嬉しい誤算
「いきなり中東はイヤだなぁ」…と、行く前はちょっと気分が重かったバーレーンGP。でも、行って良かった! なぜなら今年の開幕戦は僕にとって「嬉しい誤算」がたくさんあったからだ。F1で長年働いてる以上、本来ならオフシーズンの間に立てた自分の予想が「当たって」くれなきゃ困るのだが、それが結果として「ポジティブな方向」で外れてくれるならむしろ大歓迎。というわけで、バーレーンGPの嬉しい誤算を並べてみると。
(1)スーパーアグリ、いきなり完走!
コレは一番のビックリ! そんな風に書くと鈴木亜久里代表に怒られてしまうかも知れないけれど、新車完成後たった3周しかできていないマシン、SA05ホンダが、まさか全セッションを走りきり、決勝レースでも完走できるとは思わなかった。これがF1デビュー戦となる井出有治のほうは残念ながら35周リタイアに終わったが、そえでもレース距離の半分以上を消化しているし、琢磨はトップから4周遅れながらも18位で完走! すべてがぶっつけ本番で、決勝のグリッドに並ぶことが最大の目標だったスーパー・アグリにとっては出来すぎといっていいほどの開幕戦だったと思う。まだまだ大変なことは多いけど、とりあえず良かった、良かった!
(2)フェラーリ完全復活の兆し
もうひとつの心配事、それは去年、大不振をかこったフェラーリが今季どこまで復活できるか? という点。冬のテストではライバルチームと一緒に走ることが少なく、タイムのほうもイマイチ、抜きん出た速さが感じられない気がしていただけに、「今年もダメだったら一気に転落かな? そしたらシューマッハーも引退しちゃうかも」と気になっていたのが、そのシュー様が予選で昨年のハンガリーGP以来、久々のポールポジションを獲得。決勝でもアロンソに僅差で敗れたとはいえ、終始トップ争いを展開して完全復活を強烈にアピール。新加入のフェリッペ・マッサもまだ荒さが残るとはいえ、速さだけは一流のようだ。去年は王者、シューマッハーが実質的に不在の状態でアロンソ、ライコネンの新世代同士がタイトルを争う展開になったが、皇帝シューマッハーの復活で、今年のタイトル争いには去年以上の「重み」が出るはず、いや、良かった良かった!
(3)壊れるけど速いぞマクラーレン
走行初日からトラブルでライコネンがストップ! 予選ではいきなり右リヤサスペンションが壊れてウイングも吹っ飛び大クラッシュ! スペアカーに乗り換えて最後尾からのスタート……と、事前に心配されていた信頼性への不安がいきなり露呈してしまったマクラーレン。ところが、最後尾からスタートしたライコネンが決勝では見事な追い上げで3位表彰台を獲得! 少なくとも速さに関しては今年も一級品であることを証明してみせた。しかも、タイヤ交換が復活した今年はレース戦略もピットストップが増える方向に展開すると思われていたのに、ライコネンは1ストップ作戦を見事に活かしての3位入賞! テストでは出遅れが指摘されていただけに、良かった良かった!
(4)凄いぞニコ! デビュー戦で最速ラップ
驚いた! と同時に鳥肌が立つほど興奮したのがウイリアムズからF1デビューでいきなり7位入賞を果たした、新人のニコ・ロズベルグ。昨年のGP2シリーズチャンピオンで、F1世界チャンピオンケケ・ロズベルグを父に持つ2世ドライバーとしても注目されていたが、緒戦からこれほどの活躍を見せるとは! オープニングラップでスピンを喫し、最後尾まで落ちたのは御愛嬌だが、その後はすさまじいペースで追い上げを見せ、何とこのレースの最速ラップをマーク。先輩たちを1コーナーで次々と仕留めてゆくアグレッシブなスタイルはゾクゾクするほどカッコよかった。ちなみに、新人ドライバーのデビュー戦最速ラップ樹立は96年のジャック・ビルヌーブ以来、マシンはやはりウイリアムズでいずれも2世ドライバー……というのが面白い。ちなみに、ウイリアムズはエースのマーク・ウィーバーも6位とダブル入賞。BMWエンジンをうしなったウイリアムズがトップレベルの戦闘力を見せたことも、これまた嬉しい誤算だった。良かった、良かった!
その他、BMW、レッドブル、旧ミナルディの3チームが予想以上にいい走りをしていたのも嬉しい誤算。BAR改め、ホンダF1がトップ争いも望めるだけの高い戦闘力を見せていたのは想像通りだが、スタート時のクラッチトラブル(バトン車)やギヤボックスの故障(バリチェロ)など、細かなトラブルで本来臨んでいる結果を得られなかったのはあんまり嬉しくない「誤算」。それよりさらに大きな「大誤算」だったのは、原因不明の大スランプに陥ったトヨタ……。スーパーアグリと違って、こちらは「予算」も大きいだけにこの「大誤算」は高くつきそうである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
川喜田研(かわきた・けん)

1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。
|