女子50メートル自由形S13(視覚障害)で辻内彩野(22=OSSO南砂)が27秒92の日本新をマークし、世界選手権派遣標準記録の28秒52をクリアした。

スムーズなスタートから浮き上がると一気にスピードに乗り、昨年8月のパンパシフィック選手権(オーストラリア)で自らがマークした日本記録の28秒13を更新し、27秒台にタイムを上げた。

辻内の顔に晴れやかな笑みが広がった。「最初は28秒台前半かなと思ったんです。アナウンスがよく聞こえなくて…。あとで聞いて、泣くくらいうれしかったです、ハイ」。

スタートを課題にしていたが、今年に入ってから自主的に朝練習を開始した。プールサイドにスマホを固定し、スタートを動画撮影してはその場で欠点をチェック。入水角度や浮き上がりの修正を重ねてきた結果、「とてもなめらかで、ストロークを始める時に水の抵抗をまったく感じなかった」ことが好記録につながった。

水泳のコーチをしていた父親の影響で幼いころから泳ぎ始めた。進行性の黄斑ジストロフィーで視力低下が続く中、高校時代までは健常者の大会に出場していた。その後、故障もあってプールを離れたが、一昨年からパラで復帰し、昨年から国内外の大会で活躍している。10月のジャカルタ・アジアパラでは個人4種目で銅メダルを獲得している。

「もう、1年越しの夢、目標だったんです」と辻内はまた笑った。本当の“自己ベスト”は高校3年時にマークしていた28秒10だった。健常者のレースでマークした記録をパラスイマーとして上回り、「やっと壁を越えられたので、この壁に押し戻されないように、27秒台前半を目標にしていきたい」。アジア記録1、日本記録8つをこの1年でたたき出してきた新星の勢いが止まらない。【小堀泰男】