【新教養】「岩手ゾーン」で思いっきり振って投げて 高内外ストライクゾーンを大開放

アマチュア野球を担当していた当時に、佐々木朗希と出会った金子真仁記者。スケールの大きな選手が、岩手から立て続けに羽ばたく理由を解明しようと、さまざまな角度からアタックします。足繁く通い、ライフワークとなった取材に基づいて立てた新説。3回連載で送ります。

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いったい全体、岩手県はどうなっているのか。スーパー野球選手の輩出が続くわ続くわ、止まらない。

ブルージェイズ菊池雄星投手(31)を皮切りに、もはや適切な形容詞さえ見つからないエンゼルス大谷翔平投手(28)が続き、ロッテ佐々木朗希投手(21)はプロ3年目の今季に完全試合を達成。今秋ドラフトでは盛岡中央・斎藤響介投手(3年)がオリックスに3位指名され、来年は花巻東の長距離砲・佐々木麟太郎内野手(2年)が大きな注目を集める。

なぜいきなり、岩手から続々と怪物クラスが。単なる偶然だ。以上。…いや、それじゃロマンがない。旅好きも重なって「なぜ岩手?」を継続的に取材し、早寝教育説などを発信してきたロッテ担当記者がまた1つ、取材成果を公開する。2人の野球人の2つのアクションが融合し、ゆっくりとながら、確かな化学反応を岩手球界に起こしていた。

朗希の証言「Kボールが良かった」

佐々木朗希はまず、コントロールがいい。

1年間で340球も160キロ台を投げ込んだ若者を表現するには、ちょっと違和感があるだろうか。しかしコントロールがいい。だから完全試合もできた。

「身長が大きい方だったので、小学校の時はC球が小さくて扱えなくて、中学校入って大きくなってB球合わなくて、高校(の硬式球)で合ったみたいな感じだと思います。それにつれて球速とコントロールが同時に上がってきました」

こう、自己分析したことがある。さらに彼は、以前から何度か口にする。

「Kボールが良かったと思います」

Kボールとは―。説明は後述するとして、「岩手×Kボール」には1人のキーマンがいる。

「今日は雲が多いですね。晴れていれば、こっちに岩手山が見えますよ」

目尻を下げ、下川恵司さん(63)が駐車場までわざわざ見送りに来てくれた。岩手県、雫石町。雄大な山ふもとに広がる小岩井農場まで車で15分か20分か。定年退職後も何かと忙しい日々に、さわかやな高原の空気は極上の清涼剤だ。

Kボール推進で岩手の中学野球を改革した下川恵司さん。教育者らしい、懐を感じるたたずまい。白いポロシャツ左胸の「TEAM IWATE」が、稲穂の緑に映える

Kボール推進で岩手の中学野球を改革した下川恵司さん。教育者らしい、懐を感じるたたずまい。白いポロシャツ左胸の「TEAM IWATE」が、稲穂の緑に映える

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1980年11月、神奈川県座間市出身。法大卒、2003年入社。
震災後の2012年に「自転車日本一周」企画に挑戦し、結局は東日本一周でゴール。ごく局地的ながら経済効果をもたらした。
2019年にアマ野球担当記者として大船渡・佐々木朗希投手を総移動距離2.5万キロにわたり密着。ご縁あってか2020年から千葉ロッテ担当に。2023年から埼玉西武担当。
日本の全ての景色を目にするのが夢。22年9月時点で全国市区町村到達率97.2%、ならびに同2度以上到達率48.2%で、たまに「るるぶ金子」と呼ばれたりも。