【樋口美穂子〈上〉】いつも横にいた伊藤みどり 2番の女の子が指導者になるまで

日刊スポーツ・プレミアムでは、毎週月曜日にフィギュアスケーターのルーツや支える人の信念に迫る「氷現者」をお届けしています。

シリーズ第9弾は指導者編として樋口美穂子の来歴を辿ります。昨年3月、独立する形で新クラブ「LYS」を立ち上げて1年が経とうとしています。決断の裏にはあった思いとは-。まずは全3回の「上編」として、師である山田満知子コーチの元でスケートを始めた日々、教えることを志すまでを描きます。(敬称略)

フィギュア

   

生徒達の滑りを、鋭くも優しく見つめる樋口

生徒達の滑りを、鋭くも優しく見つめる樋口

LYS立ち上げから1年、河辺愛菜ら11人を指導

小さなスケーターたちへの視線を外すことなく、見つめていた。

わずかな動きの差から向上の鍵を探すために、じっと。

まなざしは鋭く、ただ、それ以上に優しさを感じさせた。

2月中旬、名古屋市内のガイシアリーナのリンクは、各クラブのコーチと生徒が混じり合っていた。

樋口はその中にスケート靴姿で立っていた。幾度も幾度も、小さなスケーターが滑り寄ってくる。

言葉を交わし、時には体に触れながら、より良い感覚を探り、授ける。

ジャンプの踏み切りでの腰のひねり方、手の角度、着氷後のフリーレッグの足先の位置や伸ばし方。

師を見上げてうなずいた生徒は、真剣な目でまた滑りだしていく。

細やかに、十分な時間を割いて、その人は教える側に立っていた。

「え、もう1年ですか。もうすぐなのかあ。忘れちゃったなあ」

破顔でそう思い返す。いまは小学校2年から、今春に大学に進学する河辺愛菜までの11人の選手を教える。

「LYS=Let Yourself Shine(あなたらしく輝いて)」

そう意味を込めたクラブを立ち上げたのが、2022年3月15日だった。

山田満知子コーチの右腕として、東海グランプリクラブで後継者の道を進むとばかり周囲は考えていた。

「そうですよね。そう思われていたかな。でも、私には、やりたかったことがあって。理想ですよね、本人(生徒)が自分らしくできるように協力したい。それだけなんです。そのためには小さい頃からずっと見ていないとって」

何度目かの挑戦で、うまくジャンプが決まった教え子が、歓喜に弾けるように近寄ってくる。その瞬間が何よりの幸せであり、その光景を求めていた。

いま、確かに目の前にある。

指導歴31年目の決断であり、競技歴は47年になる。

自分にもかつて、同じように目を輝かせていた頃があった。

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。