「知ってるぞ。日本はマフィアがコーチしてるんだろ」/指導者必読の連載〈1〉

スポーツ指導の現場では、なぜ体罰や暴言が続くのでしょうか? 今年に入ってからも体罰によって指導者が処分される事件が後を絶たず、暴行により逮捕される事案もありました。大阪市立桜宮高のバスケットボール部主将が、顧問を勤める教員の体罰を苦に自殺をしてから10年が過ぎ、4月25日には、スポーツ5団体が「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」を表明してから10年という節目を迎えます。指導に携わるさまざまな人々の証言から、あらためてスポーツ指導を考えます。

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〈「暴力行為根絶宣言」から10年 スポーツ現場の問題点を考える〉

 
 

「バカヤロウ!」

「お前なんか、補欠の補欠だ!」

「くそが!」

関東近郊の高校野球部では、練習でミスが出ると監督が大声で怒鳴り散らす。練習試合の最中、怒ってベンチから消えてしまうこともあった。

主将を務めるA君は、チームを代表して叱責(しっせき)を受ける機会が多かった。いつしか、彼の表情はうつろになり、唇や体が震えるようになった。あるとき、監督の姿を見た途端に全身が震えだし、過呼吸になってしまった。保護者が慌てて心療内科に連れて行ったところ「パニック障害」と診断を受けた。

首都圏の体操クラブに通う小学3年の女子児童Bさんは、コーチが怖くて仕方がなかった。ミスをすると、すぐに怒る。

「できないなら、あっちに行け!」

「やらないなら、立ってろ!」

練習が終わるまでの約2時間、立たされたままだった日もある。Bさんは怒られると、意識が遠のくようになった。立たされたまま眠ってしまったこともある。

病院へ行くと「解離性障害」と診断された。

 
 

スポーツ指導における体罰、暴言が後を絶たない。今年になってからも指導者が、体罰や暴言で処分されるニュースが相次いでいる。

千葉県内の高校バレーボール部では、監督が暴行で逮捕された。ミスをした選手を上半身裸にして、髪をわしづかみにして引っぱり、至近距離から顔にボールを投げつけたという。

山梨県内の高校では、監督が選手を怒鳴りつけながら頬を平手打ちした。この様子が動画に収められており、大きく報道され、監督は解任された。どちらも全国優勝を果たした経験のある強豪チームである。

野球指導を学ぶグループ、「ベースボール・コーチング・アカデミー」の寺澤恒代表は言う。

寺澤氏 小中学生などの保護者から、体罰や暴言に困っているという相談は数多く寄せられます。暴言が増えているのではないでしょうか。以前に比べればプレーヤー・ファーストのチームは増えていますが、全体としては少数派でしょう。大多数は古い体質のままだと思います。

同アカデミーは「マフィアのような指導を撲滅する」という目標を掲げている。1999年(平11)、寺澤氏が野球指導を学ぶため、米国のUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に短期留学した際、米国人のコーチにかけられた言葉が契機になっている。

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編集委員

飯島智則Tomonori iijima

Kanagawa

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。