【春高バレー連載〈4〉】就実高どん底からつかんだ栄光~夢の舞台は「まぶしかった」

悪夢から1年後、彼女たちは日本一になった。それはまるでドラマのような筋書きだった。正月にあったバレーボールの全日本高校選手権(春高バレー)の女子を制したのは岡山の就実高校だった。3連覇を目指した前回大会、疑惑の再検査で「コロナ陽性」とされ棄権。やり場のない涙を、全試合ストレート勝ちで嬉し涙に変えた。頂点に立つまでの軌跡を描く。(敬称略)

バレーボール

疑惑のコロナ陽性から頂点へ
流した〝2年分〟のうれし涙

三が日が明けた東京は、どんよりとした雲に覆われた。

2024年1月4日。

JR千駄ケ谷駅の改札を抜けると大勢の人たちが東京体育館へと列をなした。

会場はほぼ満員。

就実は初日の午前10時半開始の第2試合、1回戦からの登場だった。

Dコートの第1試合はフルセットまでもつれた。

体育館の片隅で、選手たちはストレッチをしながら待っていた。

4面のコートがある大きな会場を見渡す。

大歓声とともに、第1試合を戦っている高校の吹奏楽部による演奏が響いていた。

鼓動が高ぶる。

この舞台に戻ってくるまで、どれほどの涙を流してきただろう。

胸が締め付けられるような思いを抱えながら、それでも大好きなバレーボールを続けてきたのだ。

自分たちだけのためではなかった。

この舞台に立つことが許されず、卒業していった先輩がいた。

支えてくれた保護者、卒業生、そして学校の人たちもいる。

監督の西畑美希は壁際に立ち、静かに選手たちを見つめていた。

ふと目を閉じる。

それは一瞬のことだった。

【会員限定ページには3年生の進路も掲載。たくさんの写真とともに日本一までの知られざる真実を描きます】

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編集委員

益子浩一Koichi Mashiko

Ibaraki

茨城県日立市生まれ。京都産業大から2000年大阪本社に入社。
3年間の整理部(内勤)生活を経て2003年にプロ野球阪神タイガース担当。記者1年目で星野阪神の18年ぶりリーグ制覇の現場に居合わせた。
2004年からサッカーとラグビーを担当。サッカーの日本代表担当として本田圭佑、香川真司、大久保嘉人らを長く追いかけ、W杯は2010年南アフリカ大会、2014年ブラジル大会、ラグビーW杯はカーワンジャパンの2011年ニュージーランド大会を現地で取材。2017年からゴルフ担当で渋野日向子、河本結と力(りき)の姉弟はアマチュアの頃から取材した。2019年末から報道部デスク。
大久保嘉人氏の自伝「情熱を貫く」(朝日新聞出版)を編集協力、著書に「伏見工業伝説」(文芸春秋)がある。