最近のスポーツ界では、企業経営サイドからしても想像を超える数字が動いているように見えることが多くあります。中東クラブからは巨額が1人の選手に提示され、時には中堅クラブ全員の給与をその1人の選手が上回ってしまうような現象にもなっています。クラブの企業サイズという部分から見れば、レアル・マドリードやマンチェスターU、リバプール、パリサンジェルマン(PSG)といったトップクラブは1000億円近い売り上げを誇る企業とも言えます。メッシがバルセロナからPSGに移籍した当時、フリートランスファー(移籍金ゼロ)で年俸が1年目は3000万ユーロ(約50億円)、2年目は4000万ユーロ(約65億円)とも報じられており、そしてこれにインセンティブがつく契約だったようです。バルセロナに所属していた時の給与は17年シーズンから4年で6億5000万ドル(約752億円)以上と言われていました。基本給与として1億6100万ドル(約186億円)が支払われると報じられており、1年あたり日本円で46億円前後。これ以外に契約金として1億3500万ドル(約156億円)と9100万ドル(約105億円)のロイヤリティ支払いも含まれたということで、1人の選手に支払われる金額としてはフットボール業界トップクラスの数字になります。

そんな中、競技は違いますが、同じスポーツ界で大きな動きがありました。メジャーリーグベースボールで大谷選手が10年総額7億ドル(約1014億円)の契約を発表。7億ドルのうち6億8000万ドル(約986億円)が後払いとなり、来季以降の年俸200万ドル(約2億9000万円)という異例の契約と報じられました。ドジャース自体は6億ドル前後の売り上げを誇っており、現在のレートで行くと900億円前後といったところでしょうか。フットボールクラブとほとんど変わらない売り上げ規模にはなりますが、野球はなんといっても試合数が異なります。そのほとんどの試合に投手もしくは野手での出場が見込める選手ということであれば、当然の投資なのかもしれません。単純に契約金を契約年数で割ると年俸100億円前後になります。メジャーの場合は契約選手数も多く、さらに贅沢税なども発生することを考えると大きすぎる契約金のように感じなくもありません。

その中で一つ疑問に思うことがありました。今回の大谷選手の契約がフットボール界では禁じ手だということです。10年契約で、さらに後からの支払額を多くすることにより、目先の負担を減らすというもの。これは理解できますが、あくまでもクラブ目線でしかありません。選手目線で行くと、もしドジャースが破産した場合、本当に支払われるのかといったリスクも存在しているように感じます。こういった分割払い契約でクラブの財政が苦しくなり、気がつけば自転車操業状態になっていたのはヨーロッパのフットボールクラブであり、そのまま倒産することで支払い義務を回避するなど荒技が出てきたことでフィナンシャルフェアプレーなるものができた歴史があります。MLBはこの辺りどうなっているのかは研究してみます。

当然ですが、放映権の長期契約による安定収入の確保や、MLB自体そのもののからの分配金など多くのことがフットボール業界とは異なっています(フットボール業界はMLBのシステムを参考に取り入れていることが多いと言われている)。その中で一番大きく異なる部分といえば、チームの財政を金融のプロが担当しているということではないでしょうか。ドジャースのアンドリュー・フリードマン編成本部長は、投資銀行会社などを経て、MLBの世界へ。レイズの現オーナー、スチュアート・スターンバーグ、投資銀行仲間のマシュー・シルバーマン(現レイズ社長)と共にレイズのフロント入り。ウォール街出身という異例の経歴を持つGMは、球団名をレイズに変更した2008年に低迷の続いたチームをリーグ優勝に導くといった実績を挙げました。後に2014年にロサンゼルス・ドジャースで新設された編成部門の取締役(編成本部長)に就任。現在のヨーロッパフットボール界にはこのような金融畑出身の人材が少ないように感じます。

フットボールの場合は、確かに現場が大切な部分はありますが、改めてこういったクラブの財政面を支えるバックヤードにも力を入れていく必要があるのかもしれません。

【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)