ワールドカップ(W杯)ロシア大会開幕が近づき、日本代表への注目度は日増しに高まっている。1998年フランス大会から数え、今回でももう6大会目。この時期となれば、必ず思い起こすフレーズがある。

 1998年6月2日、「外れるのはカズ、三浦カズ」。日本代表、岡田武史監督による衝撃の落選発表があった。

 あれからはや20年。カズがかつて所属した静岡学園(通称・静学)からは初めてW杯代表選手が誕生した。川崎フロンターレ所属の大島僚太。身長168センチの小柄ながら卓越した技術と正確なプレー、高い戦術眼も持ち併せており、ボランチの定位置を奪いそうな勢いだ。ロシアを舞台にさらに一皮むけるのでは、と活躍を期待している。

 そんな「6・2」に、こちらも注目の静学OBを追った。関東大学1部リーグ、順天堂大FW旗手怜央(はたて・れお=20、3年)である。

順大FW旗手は戦況を見つめる
順大FW旗手は戦況を見つめる

■あの「6・2」から20年

 2020年東京オリンピックを目指す森保一監督率いる21歳以下の日本代表にも名を連ね、ことし1月のAFC・U-23選手権にもJリーガーたちに混ざって出場。北朝鮮戦ではゴールも奪っている。現在行われているトゥーロン国際大会のメンバーからは外れているが、大学サッカー界屈指のアタッカーである。この日は2位につける順大にとっては、首位の早稲田大との前半戦の大事な一戦だった。

 開始早々の3分、コーナーキック(CK)から早大に先取点を奪われる。2トップの一角でプレーする旗手は、前線で細かく動きボールを引きだそうとするが、思うようにパスが出ない。自然と2列目に落ちてプレーする時間も長くなった。54分、順大がCKから同点とした。一進一退の攻防が続いてからの終盤80分、早大MF藤沢和也(3年)がペナルティーエリア外から左足で正確に巻いた、鮮やかなコントロールシュートを決める。

 再び追う展開となった順大は旗手が個人技を発揮する。87分、混戦の中、中央をドリブルで突き進み壁パスからエリア内へ迫った。ロスタイム、バイタルエリアの狭い局面で相手を背負いながらパスを受けると、鋭いターンから左前方へスルーパス。同点か? 味方選手がフリーで放った決定的なシュートは相手GKのファインセーブによって阻まれた。旗手の一瞬の動きが作りだした絶好の決定機だった。試合は1-2で終了、やはり「6・2」は静学の日ではなかったようだ。

 シュート3本を放つも無得点だった旗手は淡々と「1人はがすとか、もうちょっと(自分が)できれば相手の守備を崩せたのかなと思います」。トップ下を務めるMF名古新太郎(4年)の不在が響いたのは歴然だった。来季から鹿島アントラーズに入団する名古は負傷で欠場した。同じ静学の1年先輩で、旗手の大きな後ろ盾となっている。足技に長けた2人が見せる、狭い局面での連係プレーは見る者の心を奪うエンターテイメント性すらある。

 「(名古は)いつも前へ上がってくれるし、静学から一緒にやっているので(パスの)出し方とかすごい分かるので。自分に縦パスが入った時に上がってくれるから、自分はターンしてドリブルするか、(名古に)出すか。でも今日はドリブルしかない状況だった」。悔しさをにじませながら、そう振り返った。

 旗手には日本人選手の可能性を感じている。172センチ、70キロというガッチリした体格。上背はないが、強くて崩れない体幹の強さを持ち、スピードもある。ただ強みはフィジカル面だけではない。足元の技術と工夫、連動によって狭い局面を細かなグラウンダーボールで攻略。ゴールへ最短距離で向かう中央突破は、なんとも魅力的だ。

 世界の舞台では変わらず、サイドからのクロスボールが攻撃の主な手立てとなるが、日本代表もそれにならっている。レスターFW岡崎慎司のように動き出しとタイミングを武器にし、プレミアリーグで大柄な外国人と対等に戦っている選手もいるが、一般論で言えば高さのない日本人にはどうしても分が悪い。だが旗手が見せるドリブル、ターン、フリックにワンツー。そういう変化に富んだ地上戦があれば、サイドからのクロスも単調なものにならず、むしろ生きてくるのでは-。そう思わずにいられない。そんなことを踏まえ、旗手に質問をぶつけた。

順大FW旗手は強引にシュートに向かう
順大FW旗手は強引にシュートに向かう

■東京五輪経由でW杯出場狙う

 -今回はトゥーロン国際のメンバーからは外れていますが、2年後には東京五輪もあるし、いつも代表は意識していますか?

 「そうですね。さらに、というのはあれですけど、静学の大島僚太さんが(W杯の)代表に入った。あの体(168センチ)で代表に入るのだったら、自分ももっとやって、オリンピックに入って、その次のワールドカップに入ってと。もっと、もっとという欲が出てきました。自分も(U-21の)代表に入っているのは入っているので、そういう意味ではもっと挑戦していかないといけない」

 -U-21代表に入って、何か自分の中で変わった部分はありますか?

 「守備の意識だったり、(攻守の)動きというのは自分のチームでも考えています。(順大監督の)堀池(巧)さんが元日本代表なので、そういうことを言ってくれるんですけど、実際に自分も代表チームを経験して、肌ですごい感じています」

 -攻撃力はこの年代でも抜きんでたものがあると思いますが、世界へ出ていくとまた何か違いがありますか?

 「(海外は)能力高いし、体強いし、足速いし、そういう選手ばっかり。そういう選手に足の速さでは勝てないし、体の強さでも勝てないので。トラップ、パス、シュートと、一つ一つの技術で状況はめちゃめちゃ変わるので。そこの技術をもっともっと磨いていったら、世界の選手には通用するのかなと思います」

 見た目こそゴツゴツしているが、旗手は技巧派集団・静学らしい選手だと思う。そのスタイルについて、本人の見立てはこうだ。

 「中学時代(三重・四日市FC)はこういう選手でなく、ボランチとかやっていたんですけど、高校に行ってからドリブルとかシュートをメチャクチャ磨いた。ただ自分がメチャクチャ、テクニックのある選手になろうとしても無理だと思ったんで。だったら自分は体が強いし、足もちょっと速いんだったら、それを生かしつつ、もっと技術をつければいいんかなと思って。そういう部分では、ちょっと静学っぽくないって言われるんですけど。それでも局面、局面ではしっかりトラップをやらないといけない、静学っぽくないって言われても、見てみたら静学かな、というふうに思っています」

 言葉の節々から「トラップ」という言葉が出た。いみじくも旗手のうまさはトラップにあると思う。ファーストタッチでボールを止めるやいなや、すかさず2つめ、3つめのタッチでボールの置き所を瞬時にして変えている。これには相手もうかつに飛び込めない。飛び込もうものならボールに触れられず、逆に体を入れ替えられてしまう。

U-23アジア選手権の北朝鮮戦、PKでゴールを決めた旗手(2018年1月16日)
U-23アジア選手権の北朝鮮戦、PKでゴールを決めた旗手(2018年1月16日)

■父はPLでKKコンビの先輩

 -海外サッカーとは見ますか? 目標にしている選手とか

 「見るんですけど、いない。自分がオリジナル。パスができるし、ホントに自分がオリジナルっすね。『あの人になりたい』と思われたらいい。相手に怖いと思われる選手になりたい」

 -足元の技術だけでなく、球際の強さとか、いろんな持ち味がある。

 「もっともっとやらなきゃいけないです。けど、最後はオリジナル」

 そして見逃してはいけないのが、その負けん気の強さだ。粘り強くやり通す、芯の強さは表情からも伝わってくる。父浩二さんは高校野球の超名門、PL学園でレギュラー選手だった。桑田&清原の「KKコンビ」の1学年上で「9番遊撃手」として春、夏の甲子園でともに準優勝。社会人野球のホンダ鈴鹿でも活躍した。「分からないですけど、そういう部分は親から引き継いだのかなと思います」。

 小学生時代に野球もやっていたが、押しつけるようなことはなかった。「(野球は)ガチでやっていたわけではないので。やりたいならサッカーやってええよ、って」。そんな父は今も良き理解者である。「毎試合見に来てくれてありがたいです。アドバイス? 何もないです」。

 高校時代から知られた存在だったが、卒業時にはプロからの勧誘は一つもなかった。順大に「拾ってもらった」とさえ言う。

 「大学に行って名古さんとかから見習うことあったし、しっかりここで成長できたのかなと思います。それだけで満足しないでもっとやらないといけない。まだまだできることがあるし、もっともっとやりたい」

 創造性あふれるカラフルなプレーの一方で、そのプレーを形作る人間性は骨太そのもの。自らのオリジナルを追い求める大学サッカー界の「バンディエラ(旗頭)」には、2年後の東京はもちろん、その先の未来も期待している。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)

爽やかな青空が広がった順大-早大戦
爽やかな青空が広がった順大-早大戦