遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。2015年シーズンは、大変お世話になりました。今年もどうぞ日刊スポーツをよろしくお願いします。

 さて先ごろ、東福岡の優勝で幕を閉じた全国高校サッカー選手権。私は年末から関西地区の高校を中心に取材しました。今大会は2020年の東京五輪世代として注目されていました。その中で初戦敗退した京都橘(京都)のエースFW岩崎悠人(2年)を紹介したいと思います。

 岩崎は、豊富な運動量とスピードが特長のU-18(18歳以下)日本代表FWで、高校2年ながらすでに東京の練習にも参加した話題の選手です。昨年はU-17、U-18日本代表に選出され、精神的にも体力的にも壁に当たった1年だったようです。「代表と(京都)橘では求められることが全然違う。代表では特長を出して結果を残せばいい。でも橘では自分がやれないといけないし、周りも生かさなければいけない。その違いに悩んだ」。

 1学年上のU-18代表に選出されて注目度が上がった一方、高円宮杯U-18プレミアリーグでは京都橘として思うように結果を出せず。プリンスリーグへの降格圏をさまよい、岩崎はエースとして責任感を感じていました。11月29日のリーグ第17節履正社戦。敗れれば降格が決定する一戦は前半だけで2点のリードを許します。そのハーフタイム。米沢一成監督(41)に呼ばれた岩崎は「イライラしてファウルするな!」と一喝されます。

 「履正社に負けたくなくて、気持ちがプレーに出ちゃっていた。余裕を持って試合に臨めなかった」。後半、ピッチに戻った岩崎の目からは涙がポロポロとこぼれました。悔しさ、ふがいなさ、焦り…。1年間徐々に積み重なった思いがあふれ出たのでした。試合中と分かりながら、泣きながらボールを追うのです。「自分が許せなかった。でもいい経験になった」。結果的に試合に敗れ、チームは降格。しかし、岩崎が大黒柱になる覚悟を決めた瞬間でもありました。

 12年度から3大会連続8強という実力校のエースとして臨んだ選手権は、12月31日の1回戦で尚志(福島)に0-1で敗退。あっという間の冬でした。決定機を演出しながら、無得点だった岩崎は「僕の力不足だったと思う」。試合後は選手、マネジャーと一緒に号泣です。でも、1カ月前に流したあの涙とは意味が違います。「もう(誰も)泣かせたくない。自分も泣きたくない」。スタジアムを後にしながら、ポツリと話しました。

 エースとは、チームが苦しい時に引っ張る存在。新チームで主将に就任することになったのも周囲の期待の表れでしょう。すでに多くのJクラブに注目されている逸材ですが、2つの涙を経験した彼が成長し、1年後どんな表情を浮かべてプレーをしているのか、今から楽しみで仕方ありません。【小杉舞】


 ◆岩崎悠人(いわさき・ゆうと)1998年(平10)6月11日、滋賀県彦根市生まれ。金城小1年時に金城JFCでサッカーを始め、小6時にJFAアカデミー福島に合格。原発事故の影響でアカデミーの拠点が静岡に移転し、静岡県御殿場市の富士岡中に入学。中3で滋賀・彦根中央中に転校し、サッカー部に所属。170センチ、67キロ。


 ◆小杉舞(こすぎ・まい)1990年(平2)6月21日、奈良市生まれ。大阪教育大を経て14年、大阪本社に入社。1年目の同年11月からサッカー担当。今季の担当はG大阪など西日本クラブ。