8月7日、静岡県藤枝市の藤枝総合運動公園サッカー場で行われたJ3藤枝対長野の試合直前。ピッチ上で集合写真の撮影を終えた長野MF橋本英郎(37)が、藤枝のベンチに向かいました。その姿に気付いた大石篤人監督(39)が歩み寄り、笑顔で握手をかわす場面がありました。

 今年40歳を迎える大石監督と橋本は3歳差。2人の出会いは、25年前にさかのぼります。中学3年だった大石監督は、G大阪のジュニアユースに所属。そしてジュニアユースへの加入が内定し、小6で練習に参加したのが橋本でした。まだ橋本は体が小さかったそうですが、大石監督は、当時のプレーをしっかり覚えていました。「小さいのに、技術は高かった。なんでもそつなくプレーできていた」。

 2人は、今年のお正月に行われたG大阪ユースのOB会で久しぶりの再会を果たしていました。そのとき橋本は、先輩がJ3で監督に就任していたことを初めて知ったそう。「それまで、全く知りませんでした。(ジュニアユース当時はかけていなかった)めがねが気になって(笑い)」。そして今年7月、J2のC大阪からJ3長野へ期限付き移籍。対戦相手の動画をチェックする中で、ベンチ前から指示を出す大石監督の姿を見ていたといいます。

 選手と監督として、初対戦となった試合。長野は前半、中盤で橋本がこぼれ球を拾い、前線に展開。何度もチャンスを作り、同34分に先制しました。しかし藤枝は同ロスタイムに追いつき、1-1に。後半に入って長野が勝ち越しますが再び藤枝が追いつき、さらに同31分には途中出場の2選手がからんで逆転に成功。大石監督の采配がピタリとはまり、3-2で藤枝が逆転勝利を挙げました。

 2人は試合後も、笑顔で握手をかわしました。敗れた橋本は「勝てるゲームだった。前半ロスタイムなど失点した時間帯も悪かった。時間の使い方を考えないと」と渋い表情。移籍して約1カ月ですが「選手の特徴は徐々に分かってきた。でも、まだなかなか引き出せていないので、これからです」と話していました。 一方、逆転勝ちをした大石監督も「前半は橋本にセカンドボールをことごとく拾われました。試合前に『オッサンは動くなよ』と声をかけましたが、彼は今もトッププレーヤー。流動的に動かれてしまった」と焦っていたそうです。小学生の頃から知る先輩として「(当時)ここまでの選手になるとは思わなかったですが(笑い)、本当にうまい。縁の下の力持ちのような役割で、チームを支えている」と話していました。

 「将来は指導者になりたい」という橋本と、Jリーグ最年少監督の大石監督。並んで話す2人の間に、25年間の絆が見えるようでした。

 ◆保坂恭子(ほさか・のりこ)1987年(昭62)6月23日、山梨県生まれ。埼玉県育ち。10年入社。サッカーや五輪スポーツ取材を経て、昨年5月から静岡支局に異動。J1磐田と、J3藤枝の担当。今季、藤枝は「ホームでは絶対に負けない」が合言葉。現在はクラブ初の5連勝中です!