少し複雑な心境だった。17日のアルビレックス新潟-大宮アルディージャ戦。新潟は1-2で敗れ、最下位脱出を逃した。リーグ戦3連敗と、浮上のきっかけを見いだせないままだ。

 ただ、気になったのは試合結果ではない。DF矢野貴章(33)が中盤の右サイドでプレーしたことだった。

 今季、名古屋グランパスから移籍。新潟には12年以来の復帰だ。06年に柏レイソルから新潟に移籍し、10年のW杯南アフリカ大会の日本代表に選出された。W杯後にドイツ・フライブルグに移籍し、12年に再び新潟へ。そして13年から名古屋。今季が3度目の新潟入団になる。出入りは激しいが、その分、新潟との縁を感じさせる矢野は、サポーターの人気が高い。

 今季、開幕から任されてきたポジションは、名古屋で開花した右サイドバックだった。過去の新潟時代はFW。この5年のうちに持ち場は守備的な位置に変わっていた。それが大宮戦で、FWではないものの、今季初めて攻撃的な位置に入ることになった。

 新潟は15節を終えて、わずか11得点。呂比須ワグナー監督(48)は、矢野の「昔取った杵柄」に期待せざるを得なかった。矢野も「求められたところで貢献したい」と2つ返事。成績不振に陥らなければ、まずなかったコンバートだ。

 「新潟は第2の故郷」。矢野は常々そう言う。名古屋時代、対戦相手の右サイドバックとしてやってきたときは「この位置で頑張ろうと思っています」と話していた。5年ぶりに新潟のユニホームを着て、昔とは違う役割で活躍する姿を、サポーターに見せたかったはず。それが低迷するチームの現状のため、矢野自身のサイドバックとしての成長も、1度歩みを止めなければならなくなった。

 求められた仕事を、求められた状況でこなす。矢野はそんなプロ意識を高く持っている。今回のコンバートも割り切っている。ただ、どこに移籍しても新潟を心の中にとどめていた分、ピッチで見せ続けたかった自分とのギャップに、奥底では戸惑いはなかろうか…と感じてしまった。

 もちろん、本人の答えは「大切なのはチームが勝つこと」だ。「本職」の右サイドバックで戦う姿が再び見られるときは、チームの前途にも光が差しているとき、と思いたい。

【斎藤慎一郎】



 ◆斎藤慎一郎(さいとう・しんいちろう)1967年(昭42)1月12日、新潟県出身。15年9月から新潟版を担当。新潟はJ2時代から取材。サッカー以外にはbj、Wリーグのバスケット、高校スポーツなど担当。