7月17日、浦和レッズを15年シーズン限りで引退した元日本代表MF鈴木啓太氏(36)の引退試合が埼玉スタジアムで行われた。

 代表でともにプレーしたMF中村俊輔(39)、浦和の黄金期を支えたFWワシントン(42)ら豪華メンバーが集結。現役時代は公式戦通算10得点と黒子役に徹していた鈴木もゴールを挙げ、照れくさそうに祝福を受けていた。


元浦和MF鈴木啓太氏の引退試合で「4K HDR」中継を行ったスカパー!の中継車内
元浦和MF鈴木啓太氏の引退試合で「4K HDR」中継を行ったスカパー!の中継車内

 この試合を、スカパー!が最先端の映像技術を取り入れて中継した。よくテレビ映像の技術である「4K」という単語はすでに浸透しているが、この日に使用されたのはさらに先を行く「4K HDR」と呼ばれる技術。この映像を配信できる中継車はまだ数台しかなく、国内サッカーの試合で仕様されるのはこの日が2度目だった。

 従来の映像を隣に並べて比べると、ひと目でわかる違いがある。対象がより明るく鮮明に映され、ユニホームが風でなびく様子もより細かく見える。スタッフの言葉を借りると「より肉眼で見ている世界に近づいた」。スタンドから見ているような感覚に、また1歩近づいたのだ。

 なぜこの映像が撮影できるようになったのか。簡単に言えば「機材が捉えられる“明るさの幅”が広がった」のだという。もっともわかりやすいのが、日なたと日陰の両方が画面に映るときだ。例えば日常スマートフォンなどで写真を撮るとき、日なたに焦点を合わせると日陰が真っ暗になってた、逆にすると日なたが真っ白になったという経験はないだろうか。テレビカメラも同じで、日陰から蹴るコーナーキックを日なたのゴール前で競り合う時などは1度に撮影できず、キッカーが蹴った瞬間にカメラを切り替える、といった工夫でうまく映してきた。


元浦和MF鈴木啓太氏の引退試合で「4K HDR」中継を行ったスカパー!の中継車内
元浦和MF鈴木啓太氏の引退試合で「4K HDR」中継を行ったスカパー!の中継車内

 「4K HDR」ではそんな工夫も不要。日なたも日陰も同時に捉えられる。要は、合わせられる焦点の範囲が広がったのだ。これによって映像が細かく切りかわることも少なくなり、蹴られたボールの軌道や選手の競り合いが一連の流れで見られるようになった。ボールを追うテレビ画面では見逃しがちな「一瞬のかけひき」も、たくさん見られるようになるかもしれない。

 難しい技術の話はさて置いても、映像はただただ鮮やか。スタジアム全体を映せばスタンドの色や青空、ピッチの芝も1度に美しく映る。「スカパー!」の関係者は「これからもっと多くの試合で取り入れられるよう検討している」とした。スタジアムに来られないお茶の間の人々にもサッカーがよりよく届けられるよう、ピッチ外でもさまざまな取り組みがなされている。【岡崎悠利】


引退試合後、胴上げされる元日本代表の鈴木啓太氏(共同)
引退試合後、胴上げされる元日本代表の鈴木啓太氏(共同)

 ◆岡崎悠利(おかざき・ゆうり) 1991年(平3)4月30日、茨城県つくば市生まれ。青学大から14年に入社。16年秋までラグビーとバレーボールを取材し、現在はサッカーでおもに浦和、柏レイソル、東京ヴェルディ、アンダー世代を担当。