「ミスター東京」のFC東京MF石川直宏(36)が2日朝、今季限りでの現役引退を発表した。同日夕、小平グラウンドで行った発表は約70分間に及び、記者会見、テレビ囲み取材、ペン囲み取材の3段階に分けられて、1つ1つの質問に対し、丁寧に思いの丈を打ち明けていた。

 引退に至った経緯は、翌日の本紙サッカー面トップをはじめ、会見直後から各メディアで大きく報じられた(主なコメントは日刊スポーツ下記URL参照)。

https://www.nikkansports.com/soccer/news/1866175.html

https://www.nikkansports.com/soccer/news/1866168.html

 愛するチームへの思いを念頭に、心に残るコメントを多くしてくれたが、中でも個人的に好きなのがこの言葉だった。「キャリア最高のゴールは?」との質問に対し、即答したものだ。

 「次の50ゴール目じゃないですか」

 01年ガンバ大阪戦のJリーグ初得点かな、09年大宮アルディージャ戦のハットトリックかな、はたまた「シーズン終了後まで過去は振り返れない」かな、とか軽く考えていたが、まさか「未来のゴール」を挙げるとは思わなかった。まだ俺は引退していない-。必ず復帰してみせる-。そんな意地を感じた。ここまでJ1通算49得点の石川。その後にこう続けた。


 「まずは『5分あれば仕事するよ』って体に戻して(起用する)監督に認めさせたい。昔からチャンスを自分でつかみとって、奪い取って、ゴールを勝利につなげてきた。だから、そういうゴールが自分にとって1番になるんじゃないかなって期待も含めて、次の50ゴール目を最も思い出深いものにしたいと思います」


 会見後の今月11日。小平グラウンドには、2日前の大宮アルディージャ戦でJ1通算400試合出場を達成したFW前田遼一(35)を、石川がサプライズ祝福する姿があった。記念のケーキを手に背後から忍び寄り、驚かせ、同い年の節目に心からの拍手を送った。


 一方、石川の出場は289試合で止まっている。「300試合を目指していたけど、ちょっと難しそうなので」。まだリハビリ中のため、残り4カ月での到達は実現不可能と覚悟している。確かに、今回の前田のような大台には届かなかったが、まだ狙える記録は残っている。通算50ゴール到達時の最長レコードだ。


 現在1位は元清水エスパルスのFWヨンセン。2010年に36歳4カ月15日で記録を樹立した。石川は、引退を発表した8月2日の時点で36歳2カ月21日。つまり、9月30日のジュビロ磐田戦から12月2日の最終節ガンバ大阪戦までの7試合で50点目を決めれば、単独1位に躍り出ることができるのだ。


 切れ味鋭いドリブルと献身的な上下動で、チャンスメークを重ねてきた。チームの勝利を最優先に身をささげながら、ゴールも1点ずつ重ねてきた。在籍16年目の「ミスター東京」。今後も青赤のレジェンドとして愛されることは間違いないが、記憶だけでなく、記録にも残っていいサイドアタッカーだ。記者が勝手に調べたもので表彰されるようなものではないが、息の長い活躍をしてきた証にはなる。リハビリを乗り越えて復活し、50点目を決める日を待ちたい。【木下淳】


 ◆木下淳(きのした・じゅん)1980年(昭55)9月7日、長野県飯田市生まれ。早大4年時にアメフットの甲子園ボウル出場。04年入社。文化社会部、東北総局、整理部を経て13年11月からスポーツ部(現在は東京五輪パラリンピック・スポーツ部)。東北総局時代はモンテディオ山形、ベガルタ仙台、昨年までは鹿島アントラーズとリオデジャネイロ五輪代表、今季からFC東京を担当する。