今年クラブ創設20周年を迎えるFC東京の新体制発表が13日に行われました。大金直樹社長(51)が発表した目標は「タイトルの獲得」。昨季は現場に「5位」という認識がありながら明かされたのが「ACL出場権」とチグハグだっただけに、今季は見据えるところをハッキリ表明。大金社長は、大型補強で期待させた昨年が13位に沈んだことに自ら触れ「怒られるかもしれませんが、目指さないと届きません」と強調。記念イヤーを彩るべく、チーム一丸で頂点を狙います。


 国内屈指の実績を誇る前ガンバ大阪の長谷川健太監督(52)を迎えたことで、夢物語では終わらないかもしれません。13位からの優勝は常識では難しい挑戦ですが、14年に国内3冠を達成した男なら-。その前年はJ2だったチームを任されており、J1復帰1年目で日本人指揮官では唯一の金字塔を打ち立てました。


 長谷川監督と大金社長は筑波大サッカー部の1学年違い。熱い先輩を招き、同じ目標に向かう決断をした後輩について、長谷川監督は「私を呼ぶのは、一大決心だったでしょう」と言い「2人が協力しないことには結果も出ない。私を呼んだ理由は、タイトルを取りたいからだと思っている。狙っていきたい」とリーグ戦、ルヴァン杯、天皇杯での優勝を目標にしました。


 FW大久保嘉こそ川崎フロンターレに復帰することになりましたが、昨季開幕前に日本代表経験者のGK林、DF太田、MF高萩、FW永井らを大型補強したチームは「ポテンシャルが高く可能性を感じる集団」に見えている模様です。さっそく、昨年はリーグ戦34試合で37得点に終わった攻撃陣に着目。「ゴールへの意識が足りない。仲はいいけど厳しさはどうなのかな」と指摘し「まずは50得点を目指す」と言いました。


 FC東京はルヴァン杯の前身ナビスコ杯で2度、天皇杯で1度、頂点に立ったことはありますが、やはり悲願はリーグ戦の初Vでしょう。ガンバで計5度の優勝(J2含む)を誇る長谷川監督いわく、優勝できるチームには「風が吹く」そうです。「ガンバ時代は本当に一体感があって、だんだん風が吹いてきた」。14年のリーグ戦。前半戦は降格圏の16位に沈みながら、負傷していたFW宇佐美の復活とともに一丸の輪郭が色濃くなり、史上最大となる首位との勝ち点14差をひっくり返す優勝を飾りました。最終節も最下位の徳島ヴォルティスにまさかの0-0でしたが、2位の浦和レッズ、3位の鹿島アントラーズが敗れたため、目指したシャーレ(優勝皿)を掲げることができました。


 このほか、別の優勝チームにV争いの佳境で2度の“ハンド見逃し”があった事例も口にし「風」の存在を強調。短絡的な審判批判ではなく「どれだけ勝ちたい思いを持って戦えるか。そうでなければ、吹く風も吹かない」と熱く語りました。その点、周囲から「ぬるい」と言われることの多いFC東京に対し「居心地がいいからか、あまり貪欲さや競争心が感じられない気がする。普段から厳しく接し、チーム内の競争をあおりたい。大きな風を吹かせるために」と鍛えていくイメージを持っています。


 2020年の東京五輪に出場する日本代表(男子)の監督候補にも挙がった指揮官。成功を収めたガンバ大阪の後に選んだのは、同じ東京でも、世代別代表で活動期間が限られる五輪ではなく、毎日の練習を見ながら成長を実感できるクラブ。「中堅だった清水でも『優勝だ』と言い続けてきた(結果は準優勝3度)。ガンバもタイトル取ってナンボのチームだった。東京はポテンシャル的に引けを取らないし、もともと守備は堅い。後ろ(最終ライン)に経験値の選手が多く、前線にもタレントはそろっていると思う。特徴を生かしながら組み合わせを考えていく。最後にタイトルを取れればいい」。国内屈指の名将が、勝ち切れない東京をどう再生するのか。今は率直に、手腕への期待しかありません。【木下淳】


 ◆木下淳(きのした・じゅん)1980年(昭55)9月7日、長野県飯田市生まれ。早大4年時にアメフットの甲子園ボウル出場。04年入社。文化社会部、東北総局、整理部を経て13年11月からスポーツ部(現在は東京五輪パラリンピック・スポーツ部)。文化社会部の音楽担当時代に安室奈美恵らを取材。東北総局でモンテディオ山形とベガルタ仙台、16年まで鹿島アントラーズとリオデジャネイロ五輪日本代表、昨季からFC東京を担当している。